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<13・未練。>
ああ、これは駄目かもしれない。隠れるのではなく、少しでも離れたところまで逃げるべきだったか。いや、そもそもこの速度を逃げ切れたかどうか。――まるで他人事のように蘭磨は思った。目の前で、バラバラに砕けて吹きとんでいくベンチを見ながら。
――正直、わかってないことだらけだ。星の宝玉とか、侍の転生とかそう言われても。
ベンチで軽減されたものの、蘭磨の体もまた吹き飛ばされて、近くの木に叩きつけられることになる。
体のあちこちから嫌な音がした。骨も折れたかもしれない。というか、枝やベンチの木片が体のあちこちに刺さっている。正直、かなり痛い。
――それでも戦わなきゃ、強くならなきゃと思ってた。そうじゃなきゃ守りたいものも守れないし、生き残れないって。でも。
どうすれば戦えるのか、どうすれば強くなれるのか、どうすれば目覚められるのかもわからず。結局のところただ、押しの強い信花としのぶに流されていただけ、なのかもしれない。本当に自分がしたいことが何なのかもわからず、何がしたいのかも理解できず。
でも、一つだけ確かなことがある。
自分がここで死んだらきっと、あの快活な少女を泣かせてしまうだろうということだ。
『もう二度と、そなたを殺させたりはせん。どんな理由があったとしても、あの日そなたの手を放してしまったこと、儂は地獄で悔んでも悔やみきれなかったのじゃ。だから、そなたの傍にいるために父に頼み込んで転校までさせてもらった。全部全部、そなたを守るためじゃ!だから、どうか……!』
――ああ、それは……嫌、だな。
置いていかれる苦しみは、自分だって知っているつもりだ。守りたいものを守れなかった時、変えられない過去を悔やんでただひたすら自分を責めるしかなくなった時。どれほど深い傷を負うのか、それが取り返しのつかないものであるのかを理解しているのである。
死にたくない。
けれどそれ以上に、悲しませたくない。
――ここで、死んだら、そうなる。……でも、どうすれば……生きられるのか、わからない。
風がやむ。全身の痛みに、地面に崩れ落ちた。ちらりと見える己の右手が血だらけになっている。指も何本かおかしな方向に曲がっていた。これは治るものなのだろうか。いや、それ以前にこの体で、逃げ延びることはできるのか。
多分足も折れているし、アバラもイッてしまっている。息も苦しい。このまま放置されても死にそうなのに、エリオットがそんな生易しいことをしてくれるとは思えない。
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