<2・変人。>

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<2・変人。>

 一人称“儂”で、オッサンなのか侍なのかもわからないようなビミョーな喋り方。しかも名前が織田信花の美少女ときた。そりゃあもう、存在そのものがネタとしか言いようがない。  しかも、その“織田信花”が転入してきて早々、“森蘭磨”に抱き着いて会いたかっただのなんだのと言ったわけである。  教室のみんなはポカーンだし、息を切らして追いかけてきた先生もポカーンだろう。 「え、えっと……」  女子の一人があっけにとられた顔で、信花に声をかけた。 「お、織田さんはその……森くんとはどういう関係で?」 「うぬ?今言うたではないか。儂は織田信長の転生者であると」  質問の意味が本気でわからない。そんな顔をして返す信花。 「そしてここにいるのは、儂の小姓であった森蘭丸の転生者である森蘭磨である!そして前世では儂らは主と小姓という立場を越えて愛し合う身であったのだ……来世で再会するのも運命だろう、違うか!?」 「いやいやいやいやいやいやいやいやツッコミが追い付かないんですけど!?」  まてまてまてまて。一体何、ノリと勢いで話を進めちゃってくれているのか。先生もドン引きして、止めるタイミングを逃しているではないか! 「俺そんなんじゃないっての!確かに森蘭丸と名前似てるけど、母さんが森蘭丸好きだったからってだけだから!関係ないから!森なんて苗字は珍しくもなんともねーし!!」  ここはもう、完全否定しておかなければなるまい。この美少女がなんでこんな妄想に憑りつかれちゃったのかは知らないが、仲間と思われては困る。なんせ自分達は小学六年生、厨二病をこじらせるにはあと二年ばかり早すぎる! 「ふむ、記憶が戻ってないのだな。それも仕方あるまい。儂も幼稚園の時に思い出すまでは、普通の女子でしかなかったからの」  しかし、信花は全然話を聞いていない様子で。 「だがしかし、儂らは必ず再び巡り合う運命だと信じておったぞ!というか、おぬしがいると知って儂自らこの学校に転校してきたので必ずしも偶然ではないが!」 「待って」 「皆の者よ、確かに儂らのような子供の前世が武将というのはなかなか信じがたい話かもしれぬ。しかし、儂はともかくこの森蘭磨を見よ!織田信長に仕えるに相応しい見目だと思わんか?」 「ねえ待って」 「この艶やかな黒髪!少女と見まごう美貌!まさに、儂が知っている森蘭丸そのものよ。これがブ男であれば説得力もなかろうが、この森蘭磨なら十分にあり得る話と皆の者も思わんか?」 「た、確かに」 「森くんならありかも……」 「お前らもなんか微妙に納得しないでェ!?」  やばい。この少女の勢いに、皆が流されつつある。確かに自分は、昔から女の子に間違われるくらいには女顔だと言われるが(非常に納得がいかない!)そもそも森蘭丸が本当に美少年だったかどうかなんてわからないではないか。なんだか後の多くの創作のせいで十八歳の美青年のイメージがついているようだけれども(実際歴史上で彼は享年十八歳だったはずなので)。 「お前ら、こんな厨二病女の言うこと真に受けるわけ!?自称織田信長だぞ?侍言葉だぞ?どう見てもやべー物件じゃん!」  蘭磨が思わず叫ぶと。  クラスの少年少女たち(轍含む)はあっさり宣ったのだった。 「なんか面白そうだから、その設定でヨシ!」 「ヨシじゃねえわ現場猫ども!!」  ああ駄目だ。こいつらにフォロー期待した自分が馬鹿だった。 「まあとりあえず、頑張れよ」 「うっせボケ」  とりあえず、ニコニコ笑顔で親指立ててきた轍の後頭部をひっぱたく蘭磨だった。
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