<14・記憶。>

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 *** ――思い出した。  全部の記憶ではない。それでも、蘭磨にとっては十分だった。涙が頬を伝っている。自分は、蘭丸は本当は納得などしていなかったのだと。  本当は信長の傍で、最後まで守りたかった。それができず、あまつさえ信長を死なせてしまった。それがずっと心残りで、蘭丸の魂はいつまでもいつまでも囚われ続けたのだということを。 ――死してなお、願っていたんだ。あの方を救いたいと。今度こそ、あの方の傍で、光射す道を歩きたいと。だから。  だから、自分は此処にいる。  誰が許してくれたのか、誰が認めてくれたのか、誰が決めたのかはわからない。ひょっとしたらそれは神の気まぐれかもしれず、星の宝玉が決めた悪意でしかなかったのかもしれない。それでも。  ただ一つ紛れもない真実は、今自分が此処にいること。森蘭磨として生き、信花の傍にあるということだ。  ならば必ず意味がある。もし意味がなかったとしても、その意味はこれから作るべきもののはずだ。与えられたチャンスを無駄になんぞしたら、それこそ本当にあの時命がけで信長を守ろうとした蘭丸と、手を汚してまで救おうとしてくれた光秀が浮かばれないではないか。 ――あれが真の記憶ならば、宝玉は光秀が持っていったはず。その後どうなった?……わからない。でも、必ずわかる時が来るはず。信長の悲願を叶え、宝玉による災厄を防ぐことも。だから。  こんなところで死ねない。  死んでたまるものか。 「おや、虫の息ですが、まだ生きてますか?……やっぱり、確実に首を刎ねないとダメなのですね」  エリオットの声と足音が聞こえてくる。自分が記憶の淵に沈んでいたのは、どうやら僅か数秒程度のことであったらしい。このままいけば確実に殺されるだろう。だが、そういうわけにはいかない。  自分には、使命がある。  信長の大義を果たすことだけではない。否、それ以上に。 ――俺は、信花を、守りたい。  守れる、力が欲しい。だから。 「力を貸せ、森蘭丸。そして……我が友……不動行光よ」  血まみれの手を伸ばし、叫んだ瞬間。目の前に、光の柱が出現した。 「なっ」  エリオットの戸惑った声がする。蘭磨は歯を食いしばって立ち上がると、その光の柱を握りしめた。そして、全身全霊で引き抜きにかかる。
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