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彼は、その答えを待っていたのだろうか。にっこりと笑って、蘭丸に不動行光を差し出してきたのだ。
『ならばこの刀、相応しいのはそなたであるぞ』
この時にはすでに、織田信長は星の宝玉の存在を知っていた。星の宝玉により人の意思が、理が捻じ曲げられ、起きる災厄の数々を目にしていたはずだった。
それをなんとかしたい、この世を正したいと、そういう理想をずっと抱き続けていたのであろう。ゆえに。
『人が嘘をつくのは当然のこと。時に嘘をつくことで、人は何かを守り、救うこともあるのだから。しかし、必要以上に己を大きく見せようとする者、虚飾によって強さを勘違いするような者はあまりにも愚かしい。儂が作りたいのは嘘がない世界ではない。正直であるべき時に、正直である勇気を持てる者だ。そなたならば、この刀を託すに十分よ』
『本当に、よろしいのですか?私のような者で』
『何を言う。そなただから、良いのだ』
あの時の信長の笑顔を、森蘭丸は死の間際まで思い出していた。そして、最後の最期にあの笑顔を曇らせてしまったことをいつまでも後悔していたのだ。
――もう、信花に、あんな顔はさせない。
信長の笑顔と、信花の笑顔が重なる。
――俺は生きて、あいつの傍にいる。
気づけば、ふらついていた足がしっかりと地面についていた。柔らかな光が全身を包み込み、傷の痛みが和らいでいくのを感じる。
これが覚醒なのだ、と確信していた。
「そんな、馬鹿な……!」
エリオットと向き合った。美しい少年は青い目を見開いてこちらを見ている。
「まさか、このタイミングで、目覚めたというのですか……!?」
「ああ、恩に着るよ、エリオット」
命の危機に晒され、本気で死にたくないと思ったことがトリガーになったのは間違いない。
本能寺の変で焼け身となったとされている不動行光は、今綺麗な姿で蘭磨の手の中にあった。本物は現在、個人所蔵となっているという。つまりこの手にある行光は、蘭磨の呼びかけに答えてくれた付喪神そのものということ。
これが、契約を結ぶということなのだと悟った。
「いろいろ思い出したぜ。これで、やっとお前ともイーブンで戦える」
刀を構え、蘭磨は一喝した。
「さあ、ここからが本番だ!」
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