<15・覚醒。>

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<15・覚醒。>

 全身に力がみなぎってくるのを感じる。  今なら、今まで出来なかった事ができる。確信に近くそれを感じている。 「……少々計算違いで驚きましたけど、まあいいです」  やや警戒して距離を取ったものの、エリオットは落ち着いて扇子を構えてきた。 「その小さな短刀一つで何ができると?目覚めたばかりで、ほとんど技も使えないでしょうに」 「どうだろうな」 「強がりはカッコ悪いと思います。やめましょう。……どうせ、あなたでは私には勝てないのですから。ダメージが回復してしまったのは残念ですが、こちらも無傷。そして、経験値の差でも体格でもこちらが勝る。イーブンだと言うのなら……抗って御覧なさい!」  少年が扇子を振ると、しゃん、と鈴のような音がした。きらきらした紫色の光が舞い散る。そして。 「“紫電一閃”!」  紫色のカマイタチの刃が再度襲い掛かってきた。コンマ数秒の間に、蘭磨は思考を巡らせる。  今の自分の最大の武器は二つだとわかっていた。一つは、元々持っている思考の速さ。冷静な判断力、とっさの決断力ならばそうそう負けないという自負がある。今の自分にできることを落ち着いて考えつつ、蘭磨は地面を蹴った。 ――エリオットは恐らく何者かに洗脳を受けている。つまり、本人は敵ではないはずだ。その洗脳を解けば、彼を殺さなくてもこの戦いは終わる。  もう一つは、回復力。飛んでくるカマイタチに、蘭磨は真正面から突っ込んだ。 「な!?」  エリオットの顔が驚愕に染まる。幾重にも重なる真空刃、いわばこれは薔薇の花や台風の中心部のよう。目にあたる部分にはスキマがある。そこを貫くように突っ走れば、最短距離で敵の懐に入れるというわけだ。  もちろん完全に避けることはできない。元々蘭磨の身体能力は高くないし、覚醒したからといって信花には遠く及ばないレベルであることも承知している。しかしここは、最近やったしのぶとの特訓が生きている。あの特訓で一番鍛えられたのは体力ではなく、殺気を察知する感覚と攻撃の隙間を見抜く目なのだ。 ――そして、今の俺なら、多少食らっても即座に回復できる!  ざく!と刃が肩を、足をかすめた。血が噴き出し、灼熱が走る。それでも傷は即座に塞がり、蘭磨の足を止めるには至らない。 「はああああああああああああああああ!」  そのまま真正面からエリオットの懐に飛び込み、不動行光を突き出した。 「ぐっ!」  しかしそこは、エリオットの方が上手。多少童謡したものの鋼鉄製の扇子でガードし、刃の切っ先を受け止めてくる。ガキイイイン!と鋼と鋼がぶつかる耳障りな音が聞こえた。
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