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――このまま距離を取らせるな、畳みかけろ!
「はああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
剣術の心得なんてものはないはずだった。しかし、闇雲に刃を振る右手が、何かに導かれているような感覚を覚えるのだ。
右、左、上、下。面、胴、小手、喉。恐らく森蘭丸は切るよりも突く動きの方を得意としていたのではなかろうか。的確に敵の急所を狙うことができる。
勿論、こちらはエリオットを殺すつもりで動いていない。致命傷にならないギリギリの位置を突き続けているわけだが。
「手数が……っ!くそ!」
「!」
エリオットが左腕を切りつけられながらも、蘭磨の右手首を掴んできた。そのまま勢いよく手前に引っ張られる。前のめりになったこちらの体と勢いをそのまま利用したカウンター。投げられる、と思った瞬間、体が自動で受け身を取っていた。地面にゴロゴロと転がりながらも素早く耐性を立て直す。
しかしその間に、エリオットもバックステップで離れている。うまい、と素直に感嘆した。あの状況でよく相手の手首を掴み取れるものだ。
『歴史書に記されていない事実は多いものです。例えば……私の父斎藤道三が私を信長様に嫁がせた本当の目的は、父が信長様を信用しきれていなかったからだ、といことも。父が、星野宝玉のみならずこの世にはたくさん不可思議なものがあると知っていて、数多くの秘術師や忍を抱え、自らの娘や養子たちを鍛えていたことも。……私が、その忍のトップであったことも』
真の歴史では、濃姫=帰蝶は忍であったということになっているらしい。徹底的に暗殺術や隠密機動を学んだエキスパートだった、というのはさきほどエリオット本人が語ったことである。
ならば覚醒したエリオット本人にも、それ相応の武術が叩きこまれているということか。
「凄いですね。覚醒した直後で、そこまで戦えるものなんですか?」
彼は心から感嘆したように告げた。その左腕から、ぽたぽたと血を滴らせながらも。
「しかも、元々普通の小学生なんですよね?私が調べた情報通りならば、貴方に特別な力なんてものは何もなかったはず。それなのに、回復を盾にした捨て身の特攻。なかなかできるものではありません」
「お褒めに預かりどーも」
「このまま小競り合いをしていても長引きそうです。……というわけで、敬意を表して、フルパワーの技で葬って差し上げます。さっきは一切防ぐこともできなかったこの技……今度はどう対処するか、ぜひ見せてください!」
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