<15・覚醒。>

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 扇子を大きく開き、天高く掲げるエリオット。再び紫色の光が集約していく。さっきと同じ光景だった。あの技が来る前兆。  先ほどはベンチに隠れてやり過ごそうとしたものの、結局ベンチごと吹き飛ばされ、重傷を負わされたのだ。 「“紫苑烈火”!」  紫色の竜巻がまっすぐこちらに向かってくる。蘭磨はその技の中心をじっと睨みつけた。技の初動は遅いが、大技なだけあって威力が半端ない。遮蔽物に隠れてもダメージは免れられないだろう。速度も速めだし、逃げ切るのも困難。追尾性能もあるかもしれない。  ならば。 ――完璧な技なんてない。 『蘭丸よ、よく聞け。どのような強者の軍勢であろうと、必ず弱点はある者だ。鶴翼の陣、魚鱗の陣、方陣。陣形一つ取っても、全ての難所を防衛する術は存在しない。手薄となった箇所を突けば必ずや陣は瓦解し、我が軍に勝利を齎すであろう。なれば必要なのは単なる武力以上に……それを見極めるための情報と目なのだ』 ――光秀様。あなたは私にそう教えてくださった。ならば。  紫色の渦は一件完璧な姿でこちらを飲みこもうとしているように見える。しかし、目を凝らし、耳をすまし、神経をとぎるませれば見えてくるのだ。僅かに向こう側の景色が透ける瞬間。コンマ数秒の間隙。  どくん、と心臓が脈打つ。不動行光が言っている――俺を使え、と。  オレノ、チカラハ――。 「……(こいねが)え」  刃をまっすぐに突き出して、身を屈め、蘭磨は渦に向かって突進した。 「“藍蘭浄罪(あいらんじょうざい)”!」  藍色の光が集まった剣先が竜巻の隙間を貫いた瞬間、一瞬にして技が霧散した。まるで風船が勢いよく弾けるかのように。 「そ、そんな、私の“紫苑烈火”がっ……!?」  さすがに動揺を隠せないエリオット。そのまま一気に飛び込む蘭磨。エリオットの胸の中心に、藍色の光に包まれた不動行光が吸い込まれていく。 「がっ」 「浄化」  ゆっくりとエリオットが倒れていく。しかし、刺したはずのエリオットの体には傷一つついていなかった。それも当然。蘭磨の“藍蘭浄罪”は攻撃する技ではなく、浄化する技なのだから。特定の技や人体のエネルギーを検知し、それを強制的に浄化して解除するのである。  ようは物質を構成する分子が強制的にバラバラになったことで、物体が崩壊するようなもの。攻撃するのはエネルギー体のみなので、人体に傷を負わせることはない。技の極めて弱い場所や、逆に核となるところを的確に狙わなければいけないのという問題はあるが。 ――うまくいった、よな?多分。
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