<15・覚醒。>

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 ふう、とその場に座り込む蘭磨。エリオットの様子。多少擦り傷はあるようだが大きな怪我はなさそうだし、すうすうと穏やかな寝息が聞こえてくる。  蘭磨が狙ったのはエリオットの体に憑りついていた“何者かの邪悪なエネルギー”だった。彼を洗脳しているものを断ち切れば、洗脳を解いて解放することも可能だと考えたからである。  そもそも彼が本当に帰蝶の転生ならば、信長陣営と敵対する理由なんぞ微塵もない。信忠は意図的だったが、ようは“彼女”も蘭丸への嫉妬心を何者かに利用されてしまったに過ぎないのだろう。  今はもう、エリオットの体に宿っていた妙なエネルギーは見えなくなっている。浄化に成功した、と思いたいところだ。さて。 「……これから、どうしよ」  自分の体をざっくり見回してため息をついた。体の傷はどれもこれも治っているが、それでも服は破れているし血も飛び散ってしまっている。間違ってもこの恰好で家になんて帰れるはずがない。事情を何も知らない家族にどれだけ心配されてしまうかわかったものではあるまい。  同時に。 「ていうか、ここからどうやって帰ればいいんですかね……?」  エリオットは気絶したが、周囲から音が戻ってくる気配はないのだ。  切断されたブランコも、吹っ飛んだベンチも、抉れた地面もそのまま。滑り台だって溶けた飴細工のようになってしまっている。そして、右を見ても左を見ても通行人がいないということはつまり、まだ自分達が狭間の空間から現実世界に戻ってきていないということなのだろう。  そういえば、と蘭磨は青ざめる。攻撃を避ける特訓なんかはしたが、自分で狭間の空間を作り出す方法とか、そこに標的を引っ張り込む方法については教わっていなかった、と。知ったところで、まだ覚醒していなかった蘭磨は使えなかっただろうから後回しにされていたのかもしれないが。 「……え?これ、マジ俺、自力で帰れないとか、ない?」  冷や汗をかいた。選択肢は二つ。エリオットが目を覚ますのを待って解除してもらえるように頼むか、外部の者に助力を依頼するか、だ。  後者の場合、信花としのぶに連絡を取れなければ詰みなのだが。 「た、頼むぞ……」  スマホを取り出す。一応、電波は立っているようだ。祈るような気持ちで蘭磨はアドレス帳を呼び出し、“織田信花”の名前をクリックしたのだった。
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