<16・敵陣。>

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 *** 「よし行こうすぐ行こう今すぐ行こうさくさく行こうぶっ殺してやるぞ良いなさあ行こうさあさあさあ!」 「うん、とりあえず落ち着こうか信花」  にっこり笑ってこめかみに青筋を立てている信花が怖い。蘭磨は彼女を宥めながらソファーに座ったのだった。  さっきからしのぶに傷の調子を見て貰っているが、服はあっちもこっちも破れていて血も付着しているのにどこもかしこも傷が一切ないという状況。手足を検めるたび、しのぶが困惑した顔をしている。いくらなんでも治るのが早すぎる、という顔だ。  なお、ここはしのぶの家の応接室である。  信花としのぶが駆けつけてきてくれて狭間の世界から自分とエリオットを引っ張り出してくれ、ここまで連れてきてくれたのだった。なお信花はエリオットを操って蘭磨を襲撃させた奴に激怒しているようで、さっきからぶっ殺すぶっ殺すと繰り返しているのである。  正直に言おう。ものすごく怖い。めっちゃ怖い。ニコニコ笑顔で物騒なことしか言わないbotと化しているのが怖くてたまらない。 「傷が綺麗になっているのはとても良かった!蘭磨のちょー綺麗な顔に傷が残るようなことがあってはたまらんからの!で、怪我がないなら今すぐ敵のアジトに乗り込んでいってきゃつらをボッコボコのメッタンメッタンのギッタンギッタンにしてやるのがいいと思うんだがのう?反対するはずもないじゃろ?」 「はい落ち着けー?言動が完全にジャイアンだからなー?」 「ジャイアンよりもドラえもんがいいのう。スモールライトで小さくした挙句、空気砲で撃ちまくるゲームとかしてやりたいのうふふふふふふふふふ」 「はい落ち着けー?全国のドラえもん大好きな子供達がギャン泣きするようなこと言うのやめようなー?夢も希望もないからなー?」 「夢と希望に溢れているではないか!あのひみつ道具の数々があればいくらでも拷問が可能であるぞ!?」 「それを夢とか希望とか言っちゃうお前の頭が心配だよ!」  自分のために怒ってくれるのは嬉しいが、いくらなんでも頭に血が上りすぎである。――多分、蘭磨のピンチに駆けつけられなかった自分自身にも怒っているのだろうなと思う。  彼女達が公園にやってきたのは、狭間の世界から蘭磨がスマホで電話をかけたからに他ならない。どうやら、狭間の世界からでも電波だけは通じるということらしい。どうにか狭間の世界から抜け出す方法を見つけたい、やり方を教えてくれ、と言ったら現実世界の公園まで来て自分達を引き戻してくれたのである。  助けてくれた直後には、蘭磨の血まみれの姿を見てさすがの信花も卒倒しそうになっていたが。 「俺は大丈夫だから、エリオットの方も見てくれって。こいつ、本当に操られていただけなんだろうしさ。それに、帰蝶っていったら信長にとっても大切な人だろう?」 「そ、それはそうなのだがのう……」  ようやく、信花も少し落ち着いてきたようだった。  ソファーの上に寝かされたエリオットの前に座り、はあ、とため息をつく少女。 「……見たところ、帰蝶の方はちょっと擦り傷があるだけのようじゃ。魂にも傷はついておらん。浄化の力で、綺麗に敵の魔力だけ溶かしたということじゃの。蘭磨も土壇場で、よくその術を成功させたものじゃ。……恩に着るぞ」 「うまくいったんだな?それは良かった。今は疲れて眠っているだけ?」 「恐らく。洗脳というのは、洗脳される側にも負担を強いるものじゃからの。しかし、まさか帰蝶が外国人であろうとは。探してもなかなか見つからないのも道理か」 「それな」
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