<17・狭間。>

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<17・狭間。>

「狭間の空間に関しては、儂らも全然わかっとらんのじゃ!」  蘭磨の追求に、信花はもうドキッパリと言い切った。 「この世界の裏側にある、そっくりなもう一つの世界……らしい!認識はその程度じゃの!」 「まんまバックルームじゃねえか」 「その通り。海外の都市伝説であるバックルームと同じようなもの、という認識くらいしかない。ただ、基本的には一続きの空間で、狭間の世界に入った人間がいた場所をそのまんまコピーするらしいのでちょこっと違うんじゃがの」  彼女の説明によると。  どうにも狭間の世界というのは、この世界と別に存在しているというより、重なった空間のようなものであるらしいのだ。  そして、飛び込んだ人間がいた場所とその状況の、生き物以外のすべてをコピーするという。そういえば、蘭磨も二度狭間の空間に入る機会があったが、あの時は人間以外に鳥や虫らしきものも見なかったような気がする。 「あまりよく分かってない空間なんですよね。でも、戦いにおいては非常に便利なのですわ」  眠っているエリオットの頬に擦り傷を見つけたしのぶが、絆創膏をぺったり貼りながら言う。 「コピーされただけの別空間ですから、いくら暴れても壊しても全然問題がないんです。戦いで、第三者を巻き込まなくていいというのはとてもありがたいのですわ。特訓する時も、大技を訓練する時は狭間の空間を使った方がいいですわね。デメリットもありますけど」 「デメリット?」 「ええ。それも踏まえて、現時点でわたくし達が知っていることは全てお伝えしておきます。例えば」  ぱたん、としのぶは救急箱を閉じた。 「先日、わたくしが父上と蘭磨くんを襲撃した時のこと。蘭磨くんは、わたくしの隙を作るために車を動かして反撃してきましたよね?」 「ああ」  そういえば、あれも気になっていたのだ。  恐らく、あの車は狭間の空間を作った時、まさに丁度道路を走ってきたところだったのだと思われる。その状態で、狭間の空間のまるごとコピーされたのだ。  ところが、本当にそのままコピーされたならば、人間がいなくなったことで車はコントロールを失ってしまったはず。ギアはドライブに入ったまま。アクセルを踏んでいなくても車は惰性で暫く走り続けるものだ(というか、アクセルを踏む前でも、ブレーキから足を離すと徐々に動いていくものだと父からは聞いている。それを利用して、じりじり動きたいやブレーキを緩やかに踏みたい時はアクセルとブレーキの両方から足を離すということもするらしい)。  ようは、そのままどこかにぶつかってドンガラガッシャン!となったはず。ところが実際は車は停車していて、ギアもご丁寧にパーキングに入った状態だった。運転手はおらず、鍵は刺さったままで。あの時の自分にとっては、都合が良すぎるほど都合が良い状態だったわけだが。
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