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「では、どこでもいい、そのパズルのピースを外してみるのじゃ。そしてその向こう側を覗いてみるといい。自分が通れるほどの穴を開けたら、そこを潜ってみるのじゃ」
言われるがまま、パズルのピースを外していく。自分の体格ならば、手のひらより少し大きいピースを六個も外せば通り抜けられる。パズルのピースを取っても、向こうにはまったく同じ景色があるようにしか見えないが、しかし。
「なっ」
頭を突っ込んで潜り抜けた途端、ぐるん、と一瞬視界がひっくり返るような感覚があった。今、なんらかの境界を越えたのだとはっきり理解した。そして。
「の、信花?しのぶ!?」
いない。
さっきまで傍にいた信花もしのぶも、なんならソファーに寝転がっていたエリオットもいなくなっている。
床には、さっきまでしのぶが持っていた救急箱が無造作に置かれた状態になっていた。彼女がいなくなったので、そのままの形で落下したのだと言わんばかりに。
「あ」
ぶるるるるる、とスマホが震えた。発信元は、“織田信花”。慌てて通話ボタンを押し、耳に押し当てる蘭磨。
『無事に、狭間の世界に入ったようじゃの』
向こうから、少々ノイズが強いが信花の声が聞こえてくる。そういえば、電波は通じるものの、狭間の世界から電話をかけたさっきも同じようにノイズが強くなっていた。壁を越える影響だろうか。
『おぬしには、儂としのぶとエリオットが同時に消失したように見えておるじゃろう?儂らからは逆じゃ。そなたが空間を潜った途端、そなたの姿がほとんど見えなくなった。正確には、意識を集中するとかなり体が透けた状態で、ぼんやりおぬしの姿が見えるといったかんじじゃの。壁ごしでは、この程度しか見ることができぬ』
「これ、どうやって戻ればいいんだ?」
『今回はおぬしが狭間の世界を作ったようなもの。手を叩いて念ずれば、それだけで世界が反転し、元に戻ることができよう』
「わ、わかった。やってみる」
緊張しながらも、スマホを肩と耳で挟んだ状態で手を叩いた。パン!と小気味よい音が鳴る。そのまま目を閉じて意識を集中する蘭磨。一瞬、体がふわりと浮かび上がるような奇妙な感覚を覚えた。
「どうじゃった?」
「!」
はっとして顔を上げれば、信花の声が二重に重なって聞こえた。スマホと、それから目の前に立っている信花からだ。慌てて通話を着る。どうやら本当に、元の空間に戻ってくることができたらしい。
「……やり方は、難しくなさそうってのはわかった」
蘭磨は戸惑いながらもそう返した。
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