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<18・受容。>
なるほど、と合点がいった。
せっかく“いくらぶっ壊しても問題ない”異空間を作る方法があるのに、基本的な特訓を現実世界のしのぶの家の地下でやっているのか。
万が一の事故が起きた時、戻れなくなることを懸念していたというわけだ。
「……やっぱりさあ」
蘭磨は頭痛を覚えながら告げた。
「その話を最初に俺にしておかないのはどうなんだと思う」
「す、すまんかったと言ってるじゃろ」
「しつこい男は嫌われますよ蘭磨くん」
「約一名はまったく反省してないことを理解した」
まあいい。しのぶが理由つけて嫌味を繰り返してくるのは今に始まったことでもない。どれだけ信長=信花のことが好きなんだこいつ、と思う。前世は絶対、ファザコンだったに違いない。
――まあ、父親の最期を知っていたからこそ執着しちゃうってのもあるんだろうけどな。
少しだけ怖くなった。
しのぶといい信花といい、前世の記憶が蘇る前の自分が確かにあったはずである。前世の自分は確かに自分であれ、まったく同一の存在ではない。性格だって異なる。
恐ろしい、と思うことはなかったのだろうか。過去の自分に、今の自分が飲みこまれてしまわないか、と。
「……お前たちは、さ」
だからつい、口にしてしまった。
「前世の……信長や信忠出会った自分を、随分あっさり受け入れたんだな。俺はまだ混乱してるのに。だって、今の自分はやっぱり、令和の時代を生きてる森蘭磨なわけで。前世の、戦国の世の森蘭丸とは違う。その心を知ってるけど、その決断を全部肯定はできないし、今の自分だったら同じ選択はしないだろうなと思うことも多々あるし、なんていうか、その……」
うまく言えない。信花の特徴的な喋り方がどうやら信長の記憶以前からのものだと聞いて、少し安心した自分がいるのは確かだけれど。
「そうじゃな。儂だって、全部受け入れたわけではないし、今の自分は実際のところ織田信花であることもわかっておるつもりじゃ」
そんな蘭磨の戸惑いを理解してか、信花がいつになく優しい声で言う。
「それでも、おぬしも次第にわかってくるとも。今の自分も、前世の自分も、どちらも自分なのだということが。……例えばの、儂は前世で蘭丸と深い関係であったがゆえ、確かに蘭丸の前世を持つ人間を探してここに来たが。……それとは無関係にの、おぬしを見た途端信花としても心躍ったのじゃ」
「え」
「一言で言うとのう。一目惚れをしたのじゃ。信長ではなく、信花がの!」
「え、え?」
あまりにも自然に言うので、蘭磨は完全に固まってしまった。
信花は笑っている。しかしその目は、どこまでも真剣そのものだった。
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