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「信じてくれなくても構わん。儂は……私はそなたが好きじゃ。前世が蘭丸でなくても、そなたに惚れておったと思う。それは、信長とは関係ない、儂の意思じゃ。そして、その気持ちは間違ってなかったと今、本気で思っておる。突拍子のないことばかり言う儂らを拒絶せず、そなたはしのぶが襲来した時も儂を置いて逃げなかった。立ち向かってくれた。おぬしに逃げろと言ったくせに儂は……本当はそれが、凄く嬉しくもあったのじゃ」
恩に着るぞ、と。彼女はキラキラした笑顔で言う。
真っすぐな、まるで太陽みたいな顔で、言う。
「特訓の時も、かなり無茶を強いておるのに儂らにずっとついてきてくれる。学校のドッジボールも特訓も、何をするにもおぬしは手を抜かん。いつも一生懸命じゃ。そんな姿を儂は本当に素晴らしいと思う。それは、紛れもない今の、おぬしの姿をそう評価している結果ゆえ。まあつまり」
恥ずかし気もなく、少しだけ頬を染めてそんなことを言われてしまえば。
「儂は、おぬしが大好きということじゃな!」
蘭磨はもう、何も言えない。自分の頬も熱くなっているのを感じる。
ついつい、その視線を眩しくて逸らしてしまった。
「おま、ば、馬鹿だろ……よくもまあ、そんな恥ずかし気もなく……ていうか」
「言っておくが、これは友達としての好きではないぞ。ちゃーんと恋愛感情的な好きであるぞ!」
「逃げ道ばっちり塞いできたよオイ」
ああもう、と恥ずかしくなって、誤魔化すように頭を掻いた。友達や家族としての好きを勘違いしてるだけでは、とちらっと思った不安を本人が堂々と蹴っ飛ばしてくるのだからどうしようもない。
この少女に、羞恥心というものはないのか。
あるいは、人に好きと伝えることは、まったく恥ずかしいことではないと心から思っているのか。
――今の自分の気持ち、か。
この世界の森蘭丸は、幼い頃から信長に仕える身だった。幼少期からの、あこがれの上様。それが、いつの間にか憧れを越えた存在になっていったのを覚えている。断片的にであって、本当に全ての記憶と心が戻ったわけではないけれど。
でも、こうして見つめ直してみると。自分が今誰かを守りたいと思った時、やっぱり頭に浮かぶのは信長よりも目の前の“信花”なのだ。そして、記憶が戻る前から多分、自分はもう彼女に惹かれ始めているわけで。
『嫌なんだ、あいつが泣くの。出会ったばっかなのに、過去の記憶なんかないはずなのに、そう思うんだ』
自分は、怖がらなくていいのか。
あの瞬間の気持ちが、決意が、前世由来のものでしかないのかもしれない、なんてことは。
今ここにいる、森蘭磨のものではないかもしれない、なんてことは。
「……お前、強いな」
自分はまだ子供だと思う。目の前の少女を大切だと思うけれど、それが森蘭磨のものだとは信じているけれど、恋愛感情だとはっきり言いきれるほどの自信はない。そして、それを口にできるほど達観してもいない。でも。
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