<18・受容。>

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 ***  エリオットがどうにか落ち着いたところで、情報を整理することとなった。  どうやら本当にちゃんと洗脳は解けているらしい。  一連の流れを丁寧に解説すると、エリオットはしょんぼりと肩を落として項垂れたのだった。 「本当の本当に、ごめんなさい。私、全然駄目です。駄目人間です。いくら、信長様に会えるとテンションマックスになっていたからって……」  なんでもエリオットは、幼い頃アメリカから両親と共に移住してきた在日アメリカ人らしい。顔も見た目もアメリカ人だが、やってきてからの期間が長いためか日本語は十分すぎるほど喋れるという。今は親の仕事の都合で埼玉県に住んでいるとか。覚醒した後はクダギツネの能力を使い、信長のことを探し回っていたという。  そこで、両親の許可を貰った上で、一人で東京までやってきたそうだ。エリオットの住んでいる街からここまではJRだけ乗り継げば十分来ることができる。特に危なくもないと思って、両親も一人で行くことを許したのかもしれない。  まさかこちらの町に来て早々、敵の襲撃を受けるとは思っていなかったそうだが。 「前世の帰蝶の記憶は、私の中にしっかり刻まれています。元々私、両親も、日本が大好きで日本企業に就職し、移住してきたわけです。日本の有名なお姫様が前世だったと聞いて、二人もとても喜んでくれたし、私も嬉しかったです。その記憶に、ちょっといろいろ影響されたのは否定しません」 「影響って?」 「帰蝶、とっても気の強い女性でした。信長様に寵愛される蘭丸にとっても嫉妬していたというか、怒っていたというか。あまりそういうの、表に出さないように気を付けてはいたみたいですけど」 「……そりゃあなあ」  奥さんならば、旦那が小姓に夢中になっていて面白いはずもない。蘭磨は遠い目をして思う。 「蘭丸さんが傍にいるのはわかっていて、ちょっとだけ私の中の帰蝶は怒りました。でも、本当にそれだけだったんです。私も早く愛する信長様に会いたいけど、だからって蘭丸さんを排除しようだなんて思ってませんでした。傍にいて助けられたらいいって、そう思っていただけです。なのに……」 「襲撃されて、術をかけられた?」 「そういうこと、だと思います。実は記憶の一部が飛んでるんです。二人組に襲撃されて、そのうちの女の人……私の母よりも年上の女性でした。五十歳くらい?の日本人の女性です。その女性と小さな男の子の二人組で。その女性と主に戦って、私は負けてしまいました。叩き伏せられて何かをされたら、どんどん嫉妬心が沸き上がってきて。蘭丸さんから信長様を奪い返さなきゃと、そればかり思うようになってしまって……」  洗脳、と一言で言ってもいろいろある。  完全に意思を奪われて操り人形にされるものから、特定の思想に染まってしまったり一部の感情を助長されてしまうものまでまちまちだ。今ネットでよく言われる陰謀論だって、いわゆる“洗脳を受けて染まってしまうもの”というのも間違ってはいないのだから。  彼の場合は、特定の感情を過剰に引き出されて、それ以外が何も見えなくなってしまう状態に置かれたということなのだろう。 「私のクダギツネは、探索能力にも長けています。蘭丸さん……今は蘭磨くん、ですね。蘭磨くんを見つけるのは難しくありませんでした。本当にすみません」 「そんなに謝るなって。お前は利用されただけなんだから」  それよりも、と蘭磨は続ける。大事なのはここからだ。 「お前を襲った二人組って、一体“誰”なんだ?」
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