<20・無茶。>

3/4
前へ
/105ページ
次へ
「ら、蘭磨?」 「ついでにエリオットも止めておくから、トドメ刺しに来い!」  声を出したのはわざとだ。信花を呼び寄せると同時に、エリオットにこちらの位置を知らせるための。  案の定、すぐに“紫電一閃”が飛んできた。エリオットの技ならば、竜巻を出す“紫苑烈火”の方が本来強力ではあるが、この屋内の訓練場であの大技を出すのは危険すぎる。建物が崩壊してしまう可能性があるからだ。  同時に、風でいろいろ吹き飛ばしてしまうので、スモークを吹っ飛ばしてしまうという意味でも不向きとなる。ならば、攻略法はしのぶの“黒ノ烈風”と同じ。中心に突っ込んでいって、動きを封じるだけのことである。 「くっ!」  地面を蹴り、一気に距離をつめた。またしてもカマイタチが額や足を切り裂いたが、中心部分に突っ込むことでダメージを最小限に抑える。驚いた顔のエリオットが扇子で防御してくるのを、その扇子を左手で払いのけることで対処した。  もちろん、鉄扇を直接素手で払って無事で済むはずがない。手の甲から血が噴き出し、それがエリオットを動揺させることとなる。  一瞬でも隙があればもう十分。蘭磨は彼の胸の中心に、さっきと同じように不動行光をねじ込んでいた。 「“藍蘭浄罪(あいらんじょうざい)”!」  技が強制解除され、全身から力が抜けるエリオット。これで二人とも無力化。あとはすっとんできた信花が、この二人に“とどめ”を刺せば決着となる。 ――大体、わかってきたな。  おー痛い、と左手を振りながら蘭磨は言う。結構ざっくり斬れてしまっていた。本来なら縫わなければいけないくらいの傷だろうし、出血量も気にせねばならなかったはず。だが幸い、不動行光を携えた覚醒状態の蘭磨は、あと三人より遥かに傷が治るのが早い。受けた端から回復できるのならば、その回復能力を盾にしない手はないのだ。  痛いけれど耐えられないほどじゃないし、多分なんとかなるだろう。  自分はただでさえ他の三人より運動神経で劣るのだ。この回復量と、殺気を察知して動き出す反射神経。この二つを武器にして、敵の上を行く他あるまい。多少痛くても治るなら何も問題はないだろう。 「終了だ、終了!」  しゅううううううううううう、と音を立ててスモークが消えていく。地下室の壁にあったスイッチを信花が押したのだとわかった。この部屋は非常に便利である。ライトの色、明るさも調整できるし、スモークでさらに視界を遮ることもできる。無害な煙を出すことや、室温も調整することが可能となっていた。さすが、お金持ちの家は違う。  しのぶの家は、彼女の力や役目に対して理解があるようだった。この訓練場を作ったのも、自分達が毎日のように入り浸っていても何も言わないし救急キットも貸してくれるのだからそういうこだろう。 「待て、もう終わりか?」  蘭磨はぐるぐると腕を回しながら言った。
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加