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「今日はまだ一時間もやってないだろ。撤収には早いって。少し休憩したらまた再開しないと。次いつ襲われるかわからないんだし」
「あのなあ!」
終了。その言葉に反発して蘭磨が言えば、信花は呆れたように声を上げた。
「何で止められるのか、まさかそなたはわかっていないのか?いくらなんでも、訓練で無茶をやりすぎだろう!なんだその格好は。また複を駄目にしているではないか!」
「あーごめん。……毎回新しい服用意してもらってるの、申し訳ないな。いくら金持ちでもコストはかかるだろうし」
「阿呆、儂が言いたいのはそういうことではないわ!」
「ええ?」
蘭磨が見れば、起き上がったしのぶ、エリオットもうんうんと頷いている。エリオットに至ってはちょっと泣きそうになっているではないか。
「あの、最初に貴方に怪我をさせた私が言うのもなんですけど。……服がそれだけ破れてて、あっちもこっちも血がついているということは、それだけ怪我をしたってこと。そうですよね?蘭磨さん」
「そうだけど、もう治ってるから問題ないよ」
「治ってるかもしれません。でも、治ればいいということではないと思います。それこそ、致命傷を受けたら、いくら蘭磨さんでも無事ではすみません」
「致命傷はちゃんと避けてる、問題ない」
「だから、そういうことではなくて……!」
ああ、なんて説明すればいいのだろう。エリオットは困り果てたようにしのぶを見る。しのぶもしのぶで、険しい顔で立ち上がり、つかつかと歩み寄ってきた。
「どういう心境の変化なんです、蘭磨くん。急にそんな、無茶な戦い方をするようになって。これは訓練ですよ?訓練のたびに貴方は血まみれになる気なのかしら?ちゃんと攻撃を回避して相手を止めればいいだけのことでしょう?」
「避けながらだと時間がかかる。それに、敵の弱点は正面からの方が狙いやすいことが多い。もっと言えば、正面から突っ込んでくる敵は相手も無視できない。致命傷を負わなければ俺は回復できるんだから、ギリギリ避けつつ正面突破で動きを止める方が効率がいい」
「ええ、理屈はわかりますよ、わかるますけどねえ。……小学生の子供が血まみれになって戦うのを見て、わたくしが何も思わないと思うのですか?他の二人もですよ」
そう言われてしまうと、蘭磨としても返答に窮する。あまり、見ていて気持ちの良いものではないだろう、ということくらいは理解しているからだ。
結局致命傷にはならないし、ちょっと痛いのを我慢すればいいだけなのに――というのが本音ではあるけれど、でも。
「……蘭磨が覚悟を決めてくれたのは嬉しい。じゃが、蘭磨よ」
やがて、信花は苦い表情で言ったのだった。
「今のそなたを見ていると、胸が痛い。まるで何かを守れるために、自分が積極的に犠牲になろうとでもしているかのようじゃ。何が、そなたをそうさせるのだ?」
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