<20・無茶。>

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「今日はまだ一時間もやってないだろ。撤収には早いって。少し休憩したらまた再開しないと。次いつ襲われるかわからないんだし」 「あのなあ!」  終了。その言葉に反発して蘭磨が言えば、信花は呆れたように声を上げた。 「何で止められるのか、まさかそなたはわかっていないのか?いくらなんでも、訓練で無茶をやりすぎだろう!なんだその格好は。また複を駄目にしているではないか!」 「あーごめん。……毎回新しい服用意してもらってるの、申し訳ないな。いくら金持ちでもコストはかかるだろうし」 「阿呆、儂が言いたいのはそういうことではないわ!」 「ええ?」  蘭磨が見れば、起き上がったしのぶ、エリオットもうんうんと頷いている。エリオットに至ってはちょっと泣きそうになっているではないか。 「あの、最初に貴方に怪我をさせた私が言うのもなんですけど。……服がそれだけ破れてて、あっちもこっちも血がついているということは、それだけ怪我をしたってこと。そうですよね?蘭磨さん」 「そうだけど、もう治ってるから問題ないよ」 「治ってるかもしれません。でも、治ればいいということではないと思います。それこそ、致命傷を受けたら、いくら蘭磨さんでも無事ではすみません」 「致命傷はちゃんと避けてる、問題ない」 「だから、そういうことではなくて……!」  ああ、なんて説明すればいいのだろう。エリオットは困り果てたようにしのぶを見る。しのぶもしのぶで、険しい顔で立ち上がり、つかつかと歩み寄ってきた。 「どういう心境の変化なんです、蘭磨くん。急にそんな、無茶な戦い方をするようになって。これは訓練ですよ?訓練のたびに貴方は血まみれになる気なのかしら?ちゃんと攻撃を回避して相手を止めればいいだけのことでしょう?」 「避けながらだと時間がかかる。それに、敵の弱点は正面からの方が狙いやすいことが多い。もっと言えば、正面から突っ込んでくる敵は相手も無視できない。致命傷を負わなければ俺は回復できるんだから、ギリギリ避けつつ正面突破で動きを止める方が効率がいい」 「ええ、理屈はわかりますよ、わかるますけどねえ。……小学生の子供が血まみれになって戦うのを見て、わたくしが何も思わないと思うのですか?他の二人もですよ」  そう言われてしまうと、蘭磨としても返答に窮する。あまり、見ていて気持ちの良いものではないだろう、ということくらいは理解しているからだ。  結局致命傷にはならないし、ちょっと痛いのを我慢すればいいだけなのに――というのが本音ではあるけれど、でも。 「……蘭磨が覚悟を決めてくれたのは嬉しい。じゃが、蘭磨よ」  やがて、信花は苦い表情で言ったのだった。 「今のそなたを見ていると、胸が痛い。まるで何かを守れるために、自分が積極的に犠牲になろうとでもしているかのようじゃ。何が、そなたをそうさせるのだ?」
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