<21・呪詛。>

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<21・呪詛。>

 犠牲になろうとしている?  蘭磨は思わずぽかん、としてしまった。そんなつもりは全くなかったからだ。 「や、犠牲になるつもりなんかないって。だって」  それがいけないことであるのは、自分が一番よくわかっているつもりだ。 「それで誰かを守ったって、守れたことになんかならない、そうだろう?本物のヒーローってやつがいるとしたら、それはみんなのことを守って、自分もちゃんと生き残る奴だと思ってるし。俺は回復能力があるってわかったから、それを盾にする戦法が有効だって考えてるだけだ。実際、エリオットが襲来して蘭丸の記憶が目覚めるまで、こういう訓練の仕方はやらなかっただろ」 「だからって、怪我をすれば痛いであろう?そなたは普通の小学生だったはずだ。痛い思いをするのが嫌だという気持ちは普通あるはず。なのに、何故躊躇わないのだ?」 「そりゃ、死ななければ安いからだよ」  そうだ。死にさえしなければいい。  生きてさえいれば、犠牲になることにはならない。だから。 「俺は死なない。森蘭丸とは違う。自分が犠牲になって信長を守って……そのせいで信長や光秀を苦しめるような真似なんか絶対しない。俺は俺で、蘭丸とは違うんだから」  死ななければ何も問題はない。  例えその過程で、少し痛い思いや苦しい想いをしたからって。 「……蘭磨よ」  やがて、信花が苦虫を嚙み潰したような顔で言う。 「そなた、何を怖がっておるのだ。過去に何かあったのか?」 「何がって?」 「そういえば、クラスの者に聞いたことがあったのだ。そなたは親切だし、勉強もできるしかっこいい。だからとても人気があるのだが、人との間に奇妙な溝があると。蓮沼轍のような一部の者は少し親しくしておるようじゃが、多くの者と過剰に仲良くしないようにしておるように見えると。過去に、何かあったのかの?友達を増やすのは、本来良いことだというのに」  ああ、きっと信花はそう言うのだろうな、と思っていた。彼女は転校初日で、たくさん友達を作った人間だ。人に遊びに誘われたら断らないし、あだ名で呼んでいいかと言われたらあっさり頷いて自分も同じようにあだ名で呼ぶのを躊躇わないタイプだろう。  友達百人作りたい、とかなんとかそういう歌があるが。きっと彼女ならば、学校中の人間と友達になることだって夢じゃないのだろうなと思うのである。それは、紛れもない才能だし、大事にしてほしい素質だ。  でも。 「俺は……信花、お前みたいにはなれないってだけさ」  これははっきり言っておくべきだろう。蘭磨は静かに告げる。 「友達をたくさん作るのはいいことだ。俺もそう思う。でもな、友達になったら……そいつを助けたくなるだろう?守りたくなるだろう?一クラスだけでも三十五人とか、それくらいの人間がいるわけだ。それを全部守るってのは、なかなか大変なことだぜ。でもって守れなかったら、ものすごく苦しむことになる」 「何を言っておる?守る?」 「そうだ、友達は守るもんだろ。でも、俺は、お前みたいに強い人間じゃない。喧嘩も強くないし、蘭丸として覚醒した力だって大したことじゃない、だから」  考え方の相違だ。  大切な者は、守れるものだけでいい。 「余計なものは抱え込まないことにした。手の届くものだけ、死ぬ気で守ればいいって。それが、俺の為だからさ」
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