<21・呪詛。>

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「先生も扱いに困ったんだろうな。だって二年生だぜ?八歳の子供じゃ逮捕もできない。簡単に隔離して、勉学の機会を奪うこともできない。何より彼女の信者たちは彼女の味方をして口裏を合わせるから証拠だって集められない。……自分でなんとかするしかないって思ったんだろ。あいつ、本当はすげえ正義感強いとこあるし」 「それはまあ、当然であろうな。儂だって、そのような者がいたら許せぬし、正して欲しいと願うだろう」 「うん。で、クラスが真っ二つになった。蘭磨派と、その女の子……女王様とでもしておくか。女王様の信者たちとでな」  一人に対するいじめではなかった。  そして、攻撃の対象は最初から、“女王様に従わない全員”だった。だからこそ団結もしやすかったのだろう。蘭磨は友人達に呼びかけて、共に女王様に立ち向かおう、正しさを主張して先生に訴え続けようと言ったのだ。間違いなく彼には人望があり、当時の蘭磨はクラスの殆どが親友も同然だった。きっと、クラス全員を守るため、自分がやっていることは正しいと信じていたのだろう。  実際、間違ってはいなかったはずだ。  問題は――彼に、守る者が多すぎたこと。  クラスの雰囲気にのまれて団結したはいいが、本当は女王様が怖くて怖くて仕方ない、心の弱い生徒もいたということ。 「女王様派の卑怯な悪戯、悪口、風評被害。そういうのに耐えられなくなった蘭磨派の三人の生徒が、集団で自殺を図った。二年生もあと少しで終わりって、その時になってさ」 「え……」 「その三人のうち、一人が死んで、あとの二人は酷い後遺症が残った。飛び降り自殺の失敗だから、まあ想像つくだろ。半身不随になったらしい。……俺は詳しくは知らない。でも蘭磨、その半身不随になった女の子のお見舞いに行った帰りにさ、こう言ってたらしいんだ」 『あいつらが折れかけてること、全然気付いてなかった。なんで守ってやれなかったんだ。俺は最低だ。恨まれたって仕方ない』  恐らく、その女の子に恨み事の一つでも言われたのだろう、と思われる。そして蘭磨は、彼女達がそうなった原因は自分だと責めるようになったのだと。 「何十人も友達がいたら、全員に目が届かない。気づいてやれない。抱えることなんてできない。自分はそれら全部を守れるほど強くないって思ったんだろうな。……結局そのサイコパス女王様は、二年生が終わると同時にとっとと親の都合とかで転校しちまったし」  はあ、と轍は言った。 「自殺した三人は、女王様のいじめを止めるために犠牲になろうとしたって噂もある。……いずれにせよ、蘭磨は悟ったんだろうよ。誰かの為に死ぬなんてくそくらえだ、そうなるくらいなら自分が死ぬギリギリまで苦しんだ方がましだってな」
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