<22・覚悟。>

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 ぽつりと呟いた。花には何一つ罪なんてない。あの時江湖に叩きつけられてゴミになってしまった花たちがあまりに気の毒だった。自分に買われさえしなければ、綺麗に咲いていられたかもしれないのに。  蘭磨はゆっくりと歩きだす。自分はあの日決めたのだ。もう、余計な荷物は持たないようにしようと。本当にこの腕で抱えられるものだけ持ち続けることにしようと。  クラス全員を助けられると、守れると思ったのが傲慢だった。最初から友達の数が少なければ目は届くし、困っている時すぐに気づいてやれる。守ってやることもできたはずだというのに。 ――俺は、お前とは違うよ、由真。  自分は由真のように、死んで誰かを守ろうとなんてしない。己が死んだら、遺された者達にどれほど傷を残すか知っているから。彼女は本当に誰かを守りたいならば、蘭磨を一発殴って物申してでも江湖と梨衣に学校を休ませてやるべきだったし、仲間のためなんて名目で人を巻き込んで死ぬべきではなかった。それは紛れもない事実だ。  そうやって守ったつもりになった誰かがどれほど苦しむか考えもしない。それは紛れもない由真の罪であり、それに便乗した江湖と梨衣の罪だろう。それを許すつもりはない。でも。  彼女にそうさせてしまったのは自分で。その責任は、一生背負っていかなければいけないこともわかっている。 ――俺は、絶対に誰かの為になんか死んでやらない。お前にも、蘭丸にもなりはしない。  ぎり、と拳を握りしめる。 ――全員守れなかったのは紛れもない俺の弱さで……抱える数を減らそうってのはきっと逃げなんだろうさ。でも、少なくとも俺はお前みたいに、人に一生消えない傷を刻んでいなくなったりなんかするもんか。  その代わり、自分は自分の手の届く人間だけは死ぬ気で守ると決めた。  死ななければ安いのだ。  だって生きていれば再起もできる。誰かと笑顔になれる時間も過ごせる。間違えたことを正すことも、別の誰かを救うこともできる。  だからせめて、死なない範囲で、死ぬ気で、自分は誰かを守る。そう決意した、きっとこれが正しい選択であるはずなのだ。  たとえ、天国で由真が呆れていたとしても。 「それが、俺にできる……江湖と梨衣とお前への、償いだ」  自分は絶対守る。  信花たちだけでも、必ず。
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