<3・子孫。>

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<3・子孫。>

「またねー信花ちゃん!」 「またなー織田!」 「おう、また明日、よろしく頼むぞー!」  教室に残っていたクラスメート達に手を振って、ランドセルを背負って歩きだす信花。  背が高いのでややランドセルが小さく見えるが、友人達とそうして話している様は普通の女子小学生にしか見えない。体育の時間、跳び箱の上でバク転という離れ業をやってのけた人物と同一人物とは思えなかった。――あの身体能力も、記憶が戻って覚醒したから、とでも言うつもりなのだろうか。 「……何で織田信長なんだよ」  靴箱でスニーカーに書き換えながら尋ねる蘭磨。 「女子が憧れるにしてはその、ちょっと癖が強すぎるんじゃねえの?」 「というと?」 「実力は本物だし、軍事においても間違いなく才能があったお人なんだろうさ。でも、織田信長って“冷酷無比”“残虐”な逸話もたくさんあるじゃんか」  例えば、“ホトトギス”に関する俳句が有名だろう。  豊臣秀吉を現す時はこう例えられる――“鳴かぬなら、鳴かせてみせようホトトギス”。  徳川家康の場合はこうだ。“鳴かぬなら、鳴くまで待とうホトトギス”。  そして、織田信長の場合はこう来る。“鳴かぬなら、殺してしまえホトトギス”。  非常に有名な三首だが、いつ誰が詠んだのかははっきりしていないという。ただ、これら三つの句は、三人の偉人をわかりやすく示したものというのはあまりにも有名な話だ。  つまり、信長の場合は“使えない者はさっさと殺せ”という苛烈な性格であったことを表しているのである。 「神も仏も恐れぬ残虐な所業ってのが、すごく有名だろ。比叡山焼き討ちとか、一向一揆とか、邪魔な奴ら皆殺しにしてるっていうか。あと、討ち取った武将……浅井長政とかの頭蓋骨を過信に見せつけたって話もあるんだっけ?心を折るためだったのかもしれないけど、エグい真似するよな」  まあ、織田信長はとんでもない変わり者であったとも言われる男である。浅井長政や朝倉義景の頭蓋骨エピに関しては、彼なりの敬意の表れだったなんて説もあるようだが。 「あと、使えない家臣もさっさと追放したりとかしたみたいだし。……あだ名が“第六天魔王”だぞ?こう言っちゃなんだけど、どう見ても悪役じゃん、悪役」 「はははははっ」  かなりストレートにものを言ったつもりだが、信花はまったく気にしていないようだった。それどころか。 「はははは!これは愉快、愉快であるぞ!記憶がないとはいえ、蘭丸から儂に対してそのような評価を聴くことになろうとはなあ!いやはや、転生とは実に面白いものよ」 「やっぱそのキャラ通すのか」 「キャラも何も、儂は織田信長であり、それ以上でもそれ以下でもないのだからしょうがない。確かにファッションやコスプレで名乗るにはこの名は重かろうが……事実なのだから、どうにもならない事ではある。儂も、自らが前世でやったこと、全てを後世の者らに理解され肯定されるなどとは思っておらなんだしな。まさか、この世から侍がいなくなる時代が来ようとは、当時はまったく思ってもみなかったことだが」  侍。  戦国武将、なのだから一応その括りには入るだろう。 「……未だに日本には、侍と忍者はいるって思ってる外国人、多いけどな。人気だし」
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