<24・宴会。>

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 *** 「うちらの学校にはね、忘れられた七不思議ってのがあるのよ」  おっとりした声で話し始めたのは美樹本英華(みきもとえいか)だった。いつもマイペースで、可愛い顔してものすごい大食い。晩御飯に出てきたちらし寿司をおわん一杯に盛り付けながら、ニコニコと話し始めたのがこれだった。 「封印されてる、とでも言えばいいかしらー?あのね、なんで封印されてるかというと、それを知ったら夢の中に怪物が出てきて、追いかけられて食い殺されちゃうからなのよね。というわけで、今からその話をみんなにするわねえ」 「まままままま待つのじゃあ英華よ!そ、そそそそれはいわゆる怪談というものではないのか!?な、なじぇ晩御飯の今しょれを話始めるのじゃあ!?」 「本当はこのあと部屋を暗くして話したかったんだけどお、それは怖いから嫌ってみんな言うからぁ。とりあえず、明るい今の時間ならみんなもそんなに怖くないかなって。あ、ちなみに、夢の中に怪物が、の話を聞いた時点でみんなもう怪談を聞いた扱いになってるから、ここで聞くのをやめても意味ないと思うのおー」 「NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!嫌じゃ、死にたくないのじゃあああああああ!おばけは、おばけは怖いのじゃあああああああああああああああああああ!」 「うっせええええええええええええ!」  どうやら信花は、怖い話が駄目だったらしい。すすすすす、と流れるように自分の隣に移動してきたかと思ったら、さっきから蘭磨の背中に抱き着いて絶叫している。耳元で叫ばれてかなり煩い。そして暑い。  ついでに、小学生離れした大きな胸が思い切り当たってる。もう少し女子としてそのへんは気にして欲しいのだが。 「なんでそんなに怖い話が苦手なんだよ。お前、運動神経いいし喧嘩も強いだろ?」  みんなの前で転生者の話はできないが、最近蘭磨はドッジボールのみならず“信花と一緒に喧嘩の特訓”をしていることになっているらしいので、こういう言い方をすることとなる。戦闘訓練という意味では間違ってもいない。  彼女はへし切長谷部の力を使えるわけだし、ちょっとした幽霊なんぞ怖くないと思っていた。というか、付喪神も一応妖怪の類ではなかろうか。その妖怪を使役しているのに幽霊が怖いなんて、そんなことあるのだろうか。 「儂だって何でも怖いわけではないのだ!バイオハザードとかのゾンビなら怖くない。物理攻撃が効くじゃろう!?」 「ま、まあ」 「しかし日本の幽霊は駄目なのだ。あやつらは体が透けておる!場合によっては本人が出てこないのに突然呪ってくるではないか!まだ呪怨のカヤコやリングの貞子は戦う方法もあるかもしれんが、着信アリの呪いはどうにかなる気がせん!まったくせん!刀で切れない拳で殴れない、そういう怪異は無理じゃあああああ!」 「お前なあ」  一理ある、と思ってしまった自分が悔しい。  そしてこうも思う。そう言う風にわかりやすく怖がる人がいると、怪談師はますます喜んでホラーを語り続けるものではないか、と。 「そんなに喜んでくれて、うちもとっても嬉しいわあ」  英華はそれはもう素晴らしい笑顔で箸をかちかち鳴らしてきた。 「じゃあ、できるだけ怖くなるように頑張って語るわねえ。えっとね、この話はね。うちの小学校にまだ残っている、現在使われていない飼育小屋で起きることなのねえ。ほら、丁度うちらが使う玄関の、真正面にあるでしょう~?」 「いやああああああああああああ!もう儂、玄関に行けなあああああああああああああああい!!」  駄目だこりゃ、と蘭磨は空を仰いだ。それをますます喜ぶ英華。同じくびびり散らしている生徒と、なーんにも気にせずもくもくとおさしみを食べている生徒で完全に二極化されている。証明も明るいし、全然怪談の雰囲気ではないのに駄目だというのか。  この様子だときっと信花は、某ネズミの王国のオバケ屋敷にも入れないタイプなのだろう。 ――本当に、あんな風に戦える奴がなんでオバケなんか怖がるんだか。  そういえばこいつ織田信長なんだよなあ、と改めて思う。  正直、オバケを怖がって泣き叫んでいる織田信長とか、イメージ崩壊どころではないのだけれど。
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