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自分達も小学生。あまり遅くまで遊んでいるわけにはいかない。
遅くとも全員八時までには帰宅するように、というお達しだった。特に、この屋敷は郊外にある。信花の家の使用人たちが数人ずつ車で送っていくこととなった。――蘭磨はといえばそこまで家が遠いわけでもないので、最後尾に回して貰っている。
それは、信花に訊きたいことがあったから、でもあった。途中で気づいたからだ。
今日のイベントは信花が、みんなにお願いして“蘭磨を元気づけようとした”ものであるということくらいは。
「なあ、信花」
「んー」
七時を過ぎれば、流石に暗くなってくる。縁側に座り、蘭磨は藍色の空を見上げていた。
「お前、俺が落ち込んでるとか、悩んでるとかそう思ったかんじ?だからみんなに頼んだ?」
「……」
信花は少し黙り込んで、それから蘭磨の隣に座った。今日の彼女は半パンに素足姿である。すらりと延びた、日焼けした長い足が眩しかった。
「……遠まわしに語るのは、やっぱり儂の性には合わないのう。じゃから、はっきり言うことにするわ」
彼女は一つ息を吐いて、はっきりと告げた。
「二年四組の件、をな。皆から聴いたのじゃ。おぬしの身に何があったのかをな」
「……そ」
まあ、そんな気はしていた。タブー扱いされている“二年四組”だが、元そのクラス所属のメンバーは今日この家にも来ているし、別のクラスの人間達も大まかに状況は知っている。隠していたわけでもなく、隠せることだとも思っていなかった。蘭磨の言動に違和感を覚えた彼女が、皆から話を訊いてもおかしくはない。
――まあ、轍あたりかな。……あいつもなんだかんだで、お人良しだし。
信花なら信頼が置けると思って話したなら、その判断はけして町貼ってはいない。自分が轍の立場でもきっと隠さず話すし、選択をゆだねるだろうから。
「もう終わったことだ。背負っていかなきゃいけないことではあるけど、いじめの主犯はもうこの学校にいないしな」
蘭磨は正直に告げる。
「ただ俺は学んだだけだ。大切なものは少ない方がいい。そうすれば守り切ることもできるってな」
「そなたにとって、友達とは守るものなのか?」
「何を当たり前なことを。恋人も、家族も、友達も、大切であるのは同じだろ?大事なら守る。いなくなったり、傷ついて欲しくないから助ける。お前だってそうじゃねえの」
「うむ。間違ってはいない。しかしそなたはそれでも間違っていることがあるのだ」
「んん?」
どういう意味だそれ、と眉をひそめた。微妙に矛盾した物言いに感じるのは気のせいだろうか。
「間違っていることもあると、そう言っておる」
しかし信花は、強調するように繰り返した。
「確かに大切なものは守るべきよ。おぬしの言うことは正しい。しかしな、おぬしはそれをいつも一方的に守ろうとする。それが己の役目として正しいと思っておる。……おかしなことではないか?じゃあ、そんなおぬしは誰が守るというのじゃ」
彼女は真っすぐな目で蘭磨を見つめる。
「おぬしが守りたい者が、おぬしに守られた結果おぬしが気付くのを見て、果たして本当に平気だと思っているのか?そんなはずがなかろう!」
これこそが一番言いたいことだ。
彼女の瞳は、はっきりとそう伝えていたのだった。
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