<25・決意。>

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<25・決意。>

 多分。  自分もどこかで、気づいていたことはあったのだろう。  それを、見て見ぬふりをしていただけで。 「例えばの話じゃ。儂や轍が、そなたを庇って車に撥ねられたとする。……轍はともかく、儂がどれくらいそなたにとって大事な存在になれているかはわからんが、そなたが儂を見捨てる人間ではないと信頼しているから、そう言うことにする」 「……ああ」 「それでだ。儂らが怪我をするも一命をとりとめたとしよう。病院のベッドで、おぬしを守ったことに後悔などない、死ななかったのだから問題ないと笑ったとしよう。だからこれからもどんどんおぬしを庇うぞ、怪我をしても死ななければ良いだろうと言ったとするであろう?……果たしておぬしは儂らに何を思うのかのう?心から笑って感謝するのか?今後もぜひそうして欲しいなどと言えるのか?」 「…………んなわけ、ないだろ」  わかっている。  わかって、いた。 「……お前らが傷つくのを見るくらいなら。自分が怪我した方が、千倍マシだ」  本当はわかっていたのだ。  それが矛盾であるということは。結局己は、自分が楽でいたいために、心の傷を人に押し付けて見て見ぬふりをしていたということくらいは。  そういう風に考えたのは、結局のところ。 「そのように考えるのは、おぬしが失ったことのある人間だからじゃ。それが辛くて苦しかったからじゃ。まずは、その苦しみを認めよ。その傷を自分自身が理解せよ。……それはけして、おぬしの罪ではない」 「罪だろ。俺のせいで、いじめを止められなくて、人を死なせたんだから」 「たわけ。そなたも本当は気づいておるはずじゃ。罪があるとしたら止められなかったことではなく、一人で全部止められると背負い込んだことだと。そうやって実力以上に思いあがってしまったことじゃと。そなたは善意ゆえ、皆に逃げないことを強いてしまったことを悔いておるのかもしれない。けどな、それはつまり、そなた自身も逃げられなかったということじゃ」  信花は蘭磨の手を握り、きっぱりと言った。 「逃げることの何がいけない!弱くて何がいけない!弱いところがない者など、この世界のどこにおるというのか!子供だからではないぞ、儂もそなたらもクラスのみんなも、みんなみんな当然のように弱いところがあるのじゃ。苦しいことも、駄目なところも、たっくさんあるのじゃ!完璧でないからこそ、人の弱さを理解できる、それが人の美徳ではないか!」  儂は駄目な人間じゃぞ!と信花。 「そなたのように勉強ができん!洗脳された者を傷つけずに元に戻す術もない!料理も下手で、卵焼きも爆発させる女じゃ!あとは不器用で裁縫もできんし、怪力でものをぶっ壊してしょっちゅう叱られとる!そ、それと、空気が壊滅的に読めん!」 「……そのへん自覚あったのかよ」
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