2人が本棚に入れています
本棚に追加
「うっさいわボケ!……でもな。人は、異世界転生系のチート主人公ではないからこそ、本物の友達を作ることができるし、誰かと協力して何かを作り上げることができるのじゃ。儂は、自分一人じゃ何もできん、ダメダメなところがたくさんある自分を誇らしいと思うぞ。ルフィと一緒じゃの!」
「ぷ」
そういえば、某有名な海賊漫画の主人公もそんな台詞を言っていたような気がする。ちょっと前に配信でアニメの序盤を見直したのだ。
確かに、チート無双できる人間に、仲間は必要ない。自分一人で何でもできるなら、誰かと力を合わせる必要なんてない。
人はすぐ、自分ができないところを数えて落ち込むけれど、できないところがあるからこそ誰かの失敗や弱さを理解して寄り添えるのかもしれなかった。足らないところを補って、共に歩くこともできるのかもしれなかった。
きっと、きっと、きっと。それはとても――とても素敵なことで。
「守りたいなら、そなた一人ではなく、みんなでみんなを守るのじゃ。一人が瀕死の重傷を負うのと、全員で擦り傷を負うのとどっちがマシかなんぞ言うまでもあるまい?」
信花はその顔に、向日葵のような笑顔を浮かべて告げる。
「大切なものが増えることは、怖いことではない。とても素晴らしいことよ。……そもそもそなた、人と距離を取っても結局傍にいる誰かを見捨てられんタイプじゃろ。このクラスの大して仲良しじゃない誰かがいじめられたら結局助けてしまうんじゃろ。つまり、意味なんてない。既におぬしはみんなのことが大好きじゃ、違うか?」
「……なんでそういう、また……」
「ち、が、う、の、か?」
「……違わない」
「であろう?そうとも、おぬしはみんなが大好きじゃ!みんな大切じゃ!その気持ちは、とっても幸せなものであるはずじゃ、なあそうであろう?」
「……ったく」
ああもう、と蘭磨は天を仰いでいた。
小難しいことをいろいろ考えてうたのに、全部吹っ飛んでしまった。頭は多分自分の方がいいし、論破しようと思えばできるはずだというのに。
それは多分、彼女が蘭磨が持っていないものを持っているからこそ。
その馬鹿正直さに間違いなく――自分は救われているからこそ。
「だから」
ぎゅ、と握られる手に、力がこもった。
「もう、無茶な戦い方はやめるのじゃ。儂が嫌だ。結論はそれだけじゃ」
それを伝えたかったのだと、彼女の熱は言っていた。蘭磨は目を閉じて――ため息とともに頷いたのだった。
「わかったよ。できるだけやめる」
「絶対じゃ!」
「それは約束できない」
「ああああああああああもう、この意地っぱりめがあ!」
「ふふふふ」
自分がもう一度心から笑うことを、友達を作ることを、江湖達は許してくれるのだろうか。許してくれないかもしれない、でも。
――そうだとしても、俺は。
彼女と、彼女達と生きていきたいと思うのだ。
例えどれほど、世界が残酷であるとしても。
最初のコメントを投稿しよう!