<25・決意。>

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 *** 「よろしかったのですか?長政様?」 「何が?」  スタジオでコマーシャルの収録をした帰り。律子の車で帰る最中、運転席の彼女にそう問いかけられた。  大体予想はつくが、一応返事をする凛空。伯母である彼女が自分を“長政”と呼ぶ時の用件は決まっている。 「結局、信長たちに一か月近くも猶予を与えてしまったことでです。帰蝶が戻ってこないわけですし、あちら側にわたし達の情報が筒抜けになったのは明白。……対策を練ってくる時間を与える意味はあったのでしょうか?」 「いいのだよ、お市。そもそも僕等の方も、迎え撃つための準備は必要だったじゃないか」 「それは、確かにそうでございますが」 「そもそも僕はできれば、帰蝶……エリオットにケリをつけてほしくはないと思っていたからな。お前にいろいろ手を回してもらったのに申し訳ないことではあるが」 「?」  赤信号。交差点で停止する車。どういう意味か、と律子が視線を投げてくる。  確かに、凛空としても森蘭丸は早々に戦力として削っておきたいところではあった。しかし、仮に蘭丸を消したところでそれはそれとして、織田信長とはきちんとケリをつけたい気持ちもあったのは事実である。例え“あのお方”が、手段を選ばず信長を討つように命じてきていたとしても、だ。 「……織田信長が史実にあったほど冷酷な男ではなかったこと、僕はよく知っている。僕とて、できることならば敵対なんぞしたくなかったさ。一度同盟を組んだのだって結局のところ、あの男を認めていたからこそであったしな」  いわば、ライバルであり、戦友のようなものでもあったのだ。信長が自分をどう思っていたかは定かでないのだけれど。 「本来ならば最後の戦も……一騎打ちでケリをつけたかった。そなたの兄であり、僕が唯一認めたライバルだからな。しかし、残念ながらそれは許されなかった。僕は武士として、奴と直接まみえることはできずに自らで幕を引く他なかった。結局のところ、恨んでいるというより、それが未練であったのだろうな」 「長政様、わたしは……」 「わかっている。お前からすれば憎い相手であっても仕方ない。これは、僕の純粋なる我儘だ」  凛空は目を細め、そして言ったのだった。 「万全の状態の信長と、その仲間たちと全力で戦いたい。……そうすればきっと、どのような結末になっても僕は満足できる。本当のところ、僕があの方についたのはそういう理由もあるのかもしれんな……」
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