<26・工場。>

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<26・工場。>

 まさかの、というやつだ。  いや、確かにエリオットは律子=お市に洗脳されていたわけだし、連絡先がスマホに入っていてもなんらおかしくはなかったけれど。 「……だからって普通に呼び出すものかしら」  はあ、としのぶは深くため息をついた。件の廃工場は、学校から2キロほど離れた場所にある。五年くらい前に会社がつぶれて、そのまま引き取り手もないのか放置されている場所だ。普段は危ないので立ち入り禁止になっているところである。  ここを指定してきたのは恐らく、その気になればいつでも学校を襲撃できるぞ、と示すためでもあるのだろう。実際その脅しは有効ではある。家を襲撃するぞと言われたら自分と家族だけ避難すればいいが、学校ともなるとそういうわけにもいかないのだから。  それこそ学校が休みの日であっても、教職員は普通に仕事のために来ていることも少なくない。部活動だってある。襲撃が起きれば、犠牲が出るのは免れられないことだろう。 「大体、いつでもわたくし達を呼び出す手段があるなら何で一か月くらい待ったんですかね?こちらも対策立ててるのわかってるでしょうに」 「まあ、いくつか予想はできるかな」  薄汚れた灰色の、コンクリートの建物を見つめながら言う蘭磨。入口には“株式会社乙田工業”と書かれた看板が、斜めになった状態で放置されている。手前に放置されたトラックがあり、その奥には錆びたフォークリフトのようなものも確認できた。何の工場かは興味がなかったので調べたことがなかったが、それなりの規模が大きな工場だったのは間違いあるまい。  恐らく、その隣にある少し小さな三階建ての建物が事務所だったのだろう。入口のガラス戸は罅割れてしまっていて、入るのは少々危険そうえではあるが。 「一つ、向こうもなんらかの準備期間が欲しかった。戦いだけじゃなく、俺たちと直接話したいことでもあったのかもな。だから、少しだけ猶予を与えてでも時間をあけたんじゃないか」  裏を返せば。このいかにも、な廃工場で罠をたっぷり仕掛けて待ってる可能性は非常に高いわけだが。 「もう一つは……長政がそういう性格だった、か」 「そういう性格?」 「正々堂々、万全の状態の敵と戦って叩きつぶしたい、みたいな性格じゃないかってことさ。エリオットを襲撃した時、狭間の空間を使って周りに被害が出ないようにしていたと言っていただろう?だったら、卑怯な手を好まない性格で、かつ武士道を重視する人間である可能性もあるってことだ。俺達からすると有難いけどな」 「むう……」  信花が微妙に納得がいかない顔をしている。蘭磨が覚醒前に襲われたこともそうだし、学校を破壊すると脅されていることもあるのだろう。  言いたいことはわかる、しかし。 「脅迫ってのは、実際にやる気がなくても成立はするんだぜ?」
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