<26・工場。>

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 ちらり、と斜め右後ろを振り返る。自分達の学校がある方角だ。 「なんならあいつらは、学校にいる人間を見せしめ代わりに数人殺したって良かったはずだ。その方が説得力もあるし、危機感も増す。……やらなかったのはつまり、できれば無関係の人間は殺さずに済みたい、ということの表れじゃなかろうか」 「そういうことかのう……」 「何にせよ、向こうから招待してくれるなら願ったり叶ったりだろ。訊きたいことも山ほどあるしな」  星の宝玉が、現在どこにあるのかはさっぱりわからない。彼等の手に渡っているのか、あるいは彼等も何処にあるかわからないから信長=信花とその仲間である自分達を狙っているのか。  それと、前世に関する情報も欲しい。いかんせん、信花も自分も本能寺の変前後の記憶はすっとんでしまっているのだ。明智光秀が持っていったであろう星の宝玉がその後どうなったのかもわからないし、大体光秀が今現世に転生してきているのかもわからない。  それから“影の鳥”。浅井長政らは、影の鳥のメンバーなのだろうか。それとも無関係なのだろうか。  いずれにせよ、彼等にまだ親玉がいるとしたらそれは誰なのか。 「……わたくし達が工場に入って一時間しても戻らなかったら、片野さんには父上たちが通う学校に連絡して避難をお願いするように言ってあります」  しのぶがため息交じりに言う。  今日は土曜日だが、学校には教職員たちが残っているはず。凛空たちが脅しを実行するかもしれないなら、その前に手を打たなければならない、ということだ。  ちなみに、片野さんというのはしのぶの家のメイドの女性のこと。今日は彼女に車でここまで送ってもらったのだ。ちなみにしのぶも今日は学校がなかったこともあって、いつもと違い制服姿ではない。 「そうならないように、祈りたいところですけどね」 「うむ。……とりあえず、敵の姿が見えたら即座に儂が狭間の空間を発動するつもりだ。まあ、向こうが発動してくる方が早いじゃろうがの」 「ああ」  狭間の空間は、自身が発動者でないと閉じ込められる危険がある。できれば敵との戦闘において、こちらが先に発動させてほしいところだ。  向こうが先に自分たちを視認する可能性が高い以上、なかなか難しいところではあるけれど。 「行くぞ」 「ああ」 「はい」 「わかりました」  信花、蘭磨、しのぶ、エリオット。四人は頷き合うと、工場の敷地に一歩足を踏み入れた。  妙に蒸し暑い、不吉な風を感じながら。
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