愛逢月〜君を想う〜

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 ーー藤次さん。  ーーー藤次さん。 「絢音…」  …ああ。  『また』や。  また、絢音を思うばかりに、彼女の夢を見た。  尤も、見るんは専ら声だけの夢で、一度も逢えた事はない…  この手で縊り殺して、もう直ぐ半年…いや、それ以上か。  接見に来る真嗣が、そろそろ七夕だよと言っとったから、季節が…時間が確実に流れとるのは、なんとなくやけど分かる。  そやし、手ぇや五感に残る…絢音の細い首が徐々に冷えていく様や、消えていく呼吸音、最後に口付けた唇の感触、あの日眩いまでに輝いとった月の光も、今でもはっきり覚えてる。  そんで勿論、の絢音の最期の言葉も… 「ワシが、んや…」  キュッと掌を握り締め、冷たい留置所の片隅で蹲る。 「お前は悪ない。全てを被るのはワシや。絢音…」  ふと、小さな灯り取りの格子窓から見えた空は、もうずっと鈍色の曇天で、真嗣の言葉がホンマなら、今年は織姫はんと彦星、逢えへんなぁと、何となく…御伽話の2人に自分の置かれた状況を重ねたけど、彦星には来年があることに気づいてもうて…  ほしたら、ワシはもうどう足掻いても、今生で、この世界で、あの姿の絢音に逢えへん事に気がついてもうて、したら、枯れたと思ってた涙が急に溢れてきて、誰にも気づかれんよう、ワシは声を殺して、泣き崩れた。  
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