愛逢月〜君を想う〜

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「絢音っ!!!」   叫び、ガバッと寝床から起き上がり、肩で息をする。  夢…か。  格子の向こうの看守には渋い顔されたけど、すんまへんと頭を下げたら、水が必要かと問われたので頼み、生温いそれを飲み干し汗を拭う。 「いつまでも待ってるやなんて、随分と都合のいい台詞が聞けた夢やったなぁ。」  我ながら阿呆やと自嘲しとったら、灯り取りの格子窓から見えた、満天の…星の河。  ーー待ってるから。  聞こえた都合のいい言葉と微笑みは、罪の重みに苦しむワシの心に付け行って魂を喰らおうと計った夢魔の見せた、甘い戯れに違いない。  そやし、煌々と輝く織姫と彦星を見つめている内に、なんやその戯れすら、本物に思えるようになってきて… 「いつかワシも、河を渡って、逢えるんやろか…」  その『いつか』が、明日なのか、はたまた5年、10年、20年先なのかは分からんし、何なら今、この場で首を括ろうかと、シャツに手を掛けた時やった。  不意に、あの生死の境で聞こえた君の言葉が、耳を掠める。  ーー藤次さん。生きて… 「…せやな。決めたもんな。お前が願うなら、望むなら、めっちゃ寂しいけど、生きてみるて。せやから、待っててや。俺の、織姫はん。」  どうせいつか、人は死ぬ。  なら、惚れた女にあの世で泣かれるような死に方は、もう辞めよう。  あの生死の境で、君がワシをここに残したのには、生かしたのは、きっと何か、意味がある。  そう思って、首に掛けた死花(しか)を握り締め、愛しい絢音を想いながら、ワシは眠りについた。  奇しくもその日は、7月7日の七夕の夜。  後に接見に来た真嗣の口からそれを聞かされると、こないな男の夢を汲んでくれるやなんて、随分酔狂な夢魔もいたもんやと、声を上げて笑ったら、急に真嗣が泣きだして、どないしたと問うたら、久しぶりに笑顔を見れたからと言うもんやから、心配かけてばあですまんと、詫びた。        
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