運命の黒い糸

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 彼女は泰造が住むアパートの隣人。  三年前に越してきたが、挨拶程度の関係だった。  しかし半年前より、惣菜を作り過ぎたと持参してくるようになった。  大体週に二度ぐらいで、決まった曜日はなく不定期で。  そんなに作り過ぎることがあるのかと、疑念が捨てきれないのは当然だった。  簡易容器を開けると、そこには鶏肉に里芋に人参にごぼうなどが入っており、筑前煮だと分かる。  彼は警戒心が人一倍強く、初めは手を付けて良いものかと躊躇ったが、黒い糸で繋がってないなら悪意はないだろうと、口にした。  するとあまりの美味しさに、留まることを知らない箸の動き。  久しぶりの手料理に触れた彼は、いささかな不安を覚えつつこの味の虜になっていた。
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