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「おはようございます」
「あ、どうも……」
早朝、出勤しようと玄関ドアの施錠していると、背後より聞こえるその声。
蒸し暑い中、黒いスーツに身を包んだ隣人女性だった。
「暑いですね」
「……あ、まあ……」
会話を広げることも出来ず、黙々と駅に向かっていく。
泰造は横目で彼女の指を見るが、変わらず黒い糸で繋がっている気配はなく、口を抑えて小さく溜息を吐く。
一方彼女はこちらの動作を見た途端に、口元を抑えて立ち止まってしまった。
そんな彼女の様子に泰造は思考を巡らす。
彼女は一体何を考えているのか? を。
人の心という見えないものを把握する為に、彼は視認出来る黒い糸が出現していないかを、何度も、何度も確認していた。
すると、そんな姿を見つめていた彼女は一言呟く。
「……運命の……糸を知っていますか?」と。
その言葉に、鳴り響く心臓の音。
まさか彼女も、「運命の黒い糸」を視る力を保持しているのか?
同じ能力者と思われる存在に、泰造は身震いを起こしていた。
すると自身の胸より黒い糸が出現し、それは泰造の左小指を絡めてしまい、真っ直ぐに伸びていく。
その先は、目の前に居る隣人女性。黒い糸は彼女の左小指をも絡めてしまい、二人は「運命の黒い糸」で繋がってしまった。
「あ、あ……」
「どうしました?」
彼女の問いに返事をせず走り出した泰造は、頭の中は怒涛の思考が巡っていた。
とうとう黒い糸を出現させてしまった。
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