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返事が欲しいとは思わない。
ただ無理をしてほしくなくて、大和が無理をするなら同じように私も無理をするのだということを知ってほしかっただけだ。
冷蔵庫から食材を取り出して並べ、まな板の上に乗せる。戸棚から包丁を取り出そうと屈んだところで、大和が私の横にしゃがみ込むのが見えた。
戸棚を開こうとしていた手に大きな手が重ねられて、自然と視線が彼へと向かってしまう。無視をしようとしていたはずなのに、その目で見つめられると、目がそらせない。
溶かされたチョコレートのような、熱い目でまっすぐに私だけを見つめている。
「……無視すんのに、飯は作ってくれんの?」
かすれた声で囁かれると、胸がくすぐられてどうにかなってしまいそうだ。何も言わずに目を瞑ると、さっきよりもずっと近くで大和の声が聞こえる。
「隙だらけだし、優しいし、可愛くて心配になるわ」
「っ、そこで話すのやめて」
耳元に囁かれる言葉の意味を考えるよりも先に大和の胸を突っぱねて、逆にその手を掴まれる。
「ちょっ、」
「捕まえた」
「捕まえた、って……」
バランスを崩して倒れかけたところを危なげなく抱きしめられて、大和の上に跨る形になってしまった。
ぎょっとして飛び退こうとしても、大和の手はしっかりと私の腰を掴んでいた。
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