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「ひかり」  耳元に囁かれて、思わず顔を見上げてしまった。大和の唇は弧を描いて、楽しそうに問われる。 「会話しないんじゃねえの?」 「……っ、すごい意地悪な人いる」 「どこ?」 「ふざけると怒るよ」 「いいよ、怒って。無視より断然いい」  けろりと言い放つから、言葉にならずにため息が出た。  星大和が早朝のキッチンで女性を抱えながらフローリングに倒れ込んで、寝癖も直さずにふざけるような人であることをいったいどれほどの人間が知っているだろうか。  私だけに見せる姿だったらいいなんて思うこと自体がおこがましい。 「あつい、離れて」 「んー」 「大和、寝癖ついてる」 「マジで? なおして」  自分でできるだろうに、楽しそうに頭を差し出してくる。私に無条件の信頼を渡してくれているのだと勘違いしてしまいそうだ。 「もう、自分でできるでしょ」 「たまに特別扱いしてよ」  心に浮かぶ温かい感情を必死でかき消している。  あくまでも軽い調子で囁かれる言葉に胸を殺されてしまいそうだった。一瞬息が止まりかけて、意識して息を吸い込む。  指先が震えていなかったか、正直自信がない。 「これでいい?」 「はは、優しい」 「撫でられたかったの?」 「さあ? どうだろうな」  気持ちがよさそうに目を細める彼の髪を撫で付けて、結局直らない寝癖を笑っていた。
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