836人が本棚に入れています
本棚に追加
/193ページ
「なおらない。寝癖も頑固だねえ」
「ひかりのなかで俺は頑固キャラなわけ?」
「……お仕事、時間ないんじゃないの」
「あ、やべ」
それとなく会話を途切れさせて、大和が立ち上がるのを見つめた。彼は私へと手を差し伸べて、軽々と私を立ち上がらせる。
「準備してくるわ」
「うん、いってらっしゃい」
大和が時計を見ながら私の頭を撫でて、あっさりと遠ざかっていくのを見送る。
その間、私はずっと胸の内を渦巻いている感情をかき消すことに必死だ。
「準備、しなきゃ」
無心で料理を済ませ、ダイニングにプレートを置く。
しばらく呆然と立ち尽くして、結局私はテレビ前のソファに座った。
仕事用の携帯を取り出してメールを確認し、仕事に集中しているふりをする。
こんなことをするくらいなら、顔を合わせずに家を出て行ってもらえばいいのに、懲りずに私は彼が家を出る瞬間を見ようとしてしまう。
「ひかり、なにしてんの」
ぼんやりと考え込んでいるうちに、ディスプレイが大きな手に隠されてしまった。顔を上げると大和はすでに着替えを終えていて、頭に残されていた寝癖も綺麗に消えていた。
最初のコメントを投稿しよう!