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嬉しいのかな。嬉しいと思ってくれているならいい。でももう二度とそんな機会は訪れないだろう。
私たちは終わりに向かっている。
散々引き伸ばしてきた終わりまでのカウントは、ゼロの一歩手前に迫っている。
――ごめん。
口からばかばかしい謝罪が出てきてしまいそうで、すべてを飲み込んだ。
大和の携帯が音を立てる。その後の無情さで、終わりが来てしまったのだと気づいた。
大和はあっさりと私の頬から手を離して、ポケットから携帯を取り出した。ディスプレイを見て些かげんなりとした表情になる。
「やべ。マネージャーだ」
「ほら、時間ないのにだらだらしてたからだ」
「いや、あの人がくるの早いんだよ……」
それだけ期待してくれているのだと思うよなんて、言わなくとも大和はわかっているだろう。着信に応答する事なく電話を切った大和がもう一度顔を上げた。
「溝口さん、仕事熱心だもんねえ」
「起きんのが早いだけだろ」
大和をマネジメントする担当者は、大和がブレークするよりも前、大和が私と婚姻を結んだ直後からの付き合いで、やり手のマネージャーだ。
一度だけ顔を合わせたことがあるが、銀縁のメガネをかけた真面目な男性だった。
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