840人が本棚に入れています
本棚に追加
/193ページ
「またまた。いい子のやまとくんは優しいマネージャーさんをこれ以上待たせたりしないよね?」
最近の大和の真似をして首を傾げながら顔を覗き込む。私の仕返しを見下ろした彼は、一瞬目を丸くして空気に溶けそうに薄く笑った。
「……それはずるいわ。反則」
「なにが? 何もずるくないでしょ」
「わかんないなら別にいいですー。ひかりちゃんはド鈍感だもんなあ」
「あ、ばかにした! 何も鈍感じゃないよ! センシティブなほう」
「難しい言葉知ってんじゃん」
意味のない会話を続けながら、大和の隣を歩く。玄関までの短い道のりはすぐに私たちを目的地へと運んで、私の足はぴたりと止まった。
大和は臆せずまっすぐに進んで屈み込み、スニーカーを履いた。すぐに立ち上がって、後ろに立ち尽くす私を振り返る。
「ひかり」
「うん?」
玄関の段差があっても、大和と私の頭の高さは同じにはならない。名を呼ばれて首を傾げると、大和は悪戯を思いついた子どものように笑って私の髪の毛先に触れた。くるくると弄びながら私の反応を見ている。そろそろ本当に彼のマネージャーが痺れを切らしてしまいそうだ。
そのことを伝えようと口を開きかけ、大和の言葉にかき消された。
最初のコメントを投稿しよう!