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「俺が頑張れるようになるサービス、してくれねえの?」
「はは、なにそれ」
『頑張ってほしいんならさ、こんくらいサービスしてくれないの? ひかりちゃん』
ふいに少し前のやりとりを思い出して、思わず笑ってしまった。最近の大和はどこかおかしい。人肌が恋しい季節なのだろうか。私が相手だからそうしたいのだとは思わない。
「ドラマの練習?」
「そうだって言ったらやってくれんの?」
「ええ? 恥ずかしいからしないよ」
本当は他に理由があるくせに、何一つ言えずに薄っぺらい理由を告げた。
「ふうん」
「ちょっと、手、なんで掴むの」
挑むように顔を覗き込まれる。瞳の熱で眩暈がしそうだ。目を逸らしたくても、右手を掴まれて誰よりも近くに顔を寄せられると、どこにも逃げ場がない。
「や、まと」
「んー?」
手が離れたかと思えば、輪郭をなぞるように腕を撫でられ、避けるよりも先に手をつなぎ合わされた。大和の手の熱さが流れ込んできて、顔が熱い。
「照れてんの?」
「へんなこと、するから」
「へん?」
「へん、だよ」
「俺たち、夫婦じゃん。何が変?」
真剣な表情で囁かれ、言葉を失ってしまった。私たちは夫婦だ。確かにそうだ。
――けれど、普通の夫婦とは違う。
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