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「最近なんか、……どうしたの」
「べつに。嫁に構ってほしいだけだけど?」
「これは、ちょっとレベル高すぎる」
「もっとエロい事もしてんのに?」
唆すように耳元に吹き込まれて、思わずぎょっとしてしまった。大和は私の見開いた目を見下ろして笑いながら、もう一度応答する事なく電話を切る。
「朝っぱらから本当、何言ってるの」
「はいはい、ごめんごめん。恥ずかしかったな? いい子のひかりちゃんには刺激が強かったよな」
「もう。本当にそろそろ行かないと溝口さんに怒られるんだからね」
「はは、そうだな。そろそろ行かねえと。困らせてごめんな?」
彼は少し前まで私をからかってふざけていた人とは思えないような優しい声で囁いた。目を細めて、柔らかに私の頭を撫でる。優しい熱はあっさりと私から離れていった。
「ひかりは悪い男に捕まってマジで可哀想だわ。嫌な時はちゃんと嫌って言えよ?」
どんなときにも私を優先しようとする。大和の言葉が耳に触れると、息苦しくてうずくまってしまいそうだった。
私が大和にキスをしなかった理由は、決してそうしたくなかったからではない。胸の内にある答えを口にするべきではないのに、大和が立ちあがろうとしているのを見ると、無意識に手が彼の手に触れていた。
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