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「キスがしたくなかったんじゃないよ。ただ、大和はもう頑張らなくていいって思ってるから。頑張れのキス、は、したくなかった、デス」
言い切って、言葉を返してこない大和に気恥ずかしくなりながら、やけくそになってその頭を撫でる。
「今日も偉いね。やまとくんは生きているだけでいい子だよ。頑張りすぎないでね。存在してるだけでバッチリだよ。だから無理しないで、怪我もしないで、ちゃんとお家に帰ってきてね」
たとえその家に私がいなくとも。大和は怪我をしたり苦しんだりすることなく、健やかに生きていてほしい。
思いを込めて手を離したら、されるがままになっていた大和が顔を上げた。頬が赤い。大和にも照れる瞬間があるのだと思うと、身勝手に胸が動いた。
「あー、クソ。マジで行きたくなくなってきた」
「行くのやめてねとは言ってないよ……」
「ひかり、担当のタレント誑し込んだりすんなよ」
「たらしこむ?」
「惚れさせんなってこと」
まさかそんなことをするはずがない。絶句していると、大和は勝手に私の小指を探り当てて自分のものと結んだ。しっかりと指切りをして、満足そうに口を開く。
「はい、約束」
「いや、やらないって」
「やったらそいつの前で『俺の嫁になんか用?』って言う」
「本当にドラマにありそう」
「どっかの台本で見た」
ささやかな笑いに溢れている。互いに目を見て笑い合って、三度目の着信に慌てて立ち上がった。
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