6

22/23
前へ
/198ページ
次へ
「あ、忘れてた。返すわ」 「あ、そうだった」  大和のポケットに盗まれていた社用携帯が目の前に渡されて、右手で受け取った。ディスプレイが光った一瞬、何かの連絡が来ているのが見えたが、それを無視してパンツのポケットに隠す。  こうして無防備な大和に触れるのも、もうあと僅かな時間だけだ。そう思うとひと時でも目を逸らすのが惜しく感じて、笑ってしまった。  少し前までは、彼と目があわないように必死になっていたのに。真正面から見る星大和は、今日も美しい。 「次また眠れない日があったら、その日は一緒に夜更かしして、朝飯は一緒に食う。約束」 「あはは、うん」  やっぱり彼は昨日、初めから私が悩みのせいで少しも眠れないだろうことに気づいていた。気づいていて、知らぬふりをしながらそばにいてくれたのだ。  大和はいつも次を約束してくれる。美しい約束を掲げて、もう一度私の前に小指を差し出した。 「星も見に行こう。次の休み、絶対」  優しい微笑みに触れて、胸が張り裂けてしまいそうだ。  次の休みというのは、私と大和のオフが次に被る日のことを言っている。そして、そういう日は、大抵私と大和が苦労して捻出しているから、大きな意味を持つ日だ。
/198ページ

最初のコメントを投稿しよう!

841人が本棚に入れています
本棚に追加