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「……悠翔くんの命日だよ」 「知ってる。だからせっかく遠出するんだし、たまにいいだろ」 「うーん、考えておく」  その日私たちはきっと、星を見ない。知っていたのに、答えを避けて笑った。 「考えておくってなんだよ。勝手に車で連れてくわ」 「はは、それ誘拐」  小指を重ねようとしないのに、大和は一方的に私の指を掴んで唇の端を緩めた。 「じゃ、行ってくる。そんでちゃんと帰ってくる。飯も作るし、怪我もしない」  大和はいつもの私の口癖を、私が口にするよりも先に囁いた。 「あはは、うん。それでよし」 「ひかりも無理しすぎんなよ。手ぇ抜くくらいでちょうどいい。誰にも泣かされないで帰ってくる事」  それはたぶん、難しい約束だ。困りながらも頷くと今度こそ大和は満足して私の指を解放した。 「今日、ちゃんとひかりの思ってる事、伝えてこいよ」  踵を返して、鮮やかに道を進んでいく。ドアを開いて一瞬振り返った彼が言葉なく手を振って、後ろ姿が徐々に見えなくなる。  音を立てて扉が閉じられたその時、私はこの世界にただ一人取り残された。さみしい玄関にしゃがみ込んで、息を吐く。 「溝口さん、怒ってるだろうなあ」 『星昌さん、折り合ってご相談が――』  一度顔を合わせたその時に交わした会話を思い出し、強く目を瞑る。大和のこれからを真剣に考える真っ当なマネージャーだった。 「また無理させちゃった」  私たちは終わりの入り口に立っている。 「……行かなきゃ」    
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