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私の指摘に対し、目の前の椅子に腰を落ち着けた水野愛子は慌てて目元を隠した。恐る恐る鞄から鏡を取り出し、隠すことなく顔を顰める。
「ひかりさーん、これ消えるかな〜?」
「プロに消してもらえば大丈夫なレベルかな」
昨日の彼女のスケジュールは夜二十二時ごろで終わっていたはずだ。早朝にタクシーに乗ったということは、プライベートの用事があったのだろう。
おそらく昨日打ち明けてくれた好意を寄せる相手に関する用事だろう。わかっていてそれに触れずにお弁当の蓋を開け、手渡した。
私からお弁当を受け取った彼女は、じとりと私の目を見つめ少し意地悪そうな表情になる。
「晶さんも人のこと言えないからね」
「えー、クマ出てる?」
「出てないけど、カマかけてみた」
「なにそれ」
「私のことで、悩ませたかと思って」
気づかせてしまう私が悪いのに、彼女は至極すまなそうな顔をしている。その表情に思わず目を眇めた。
心優しいこの女性が、この業界で心を折らずにいる奇跡が今も眩しい。この先もずっとこのままの輝きを放ちながら歩き続けて欲しい。
「いや? 全然悩んでないけど?」
この輝きが消えなくてよかった。ずっとここに存在してほしいがために、いくらでも苦労を惜しまず戦える。本気でそう思う。
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