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顔を覆いながら、結局耐えかねて事実を話してしまった。指の間からちらりと水野愛子の反応を見る。彼女は一瞬あんぐりと口を開いて、すぐに目をきらめかせた。
これを吐かせるためにわざと下世話な話をしてきたのだと気づいてももう遅い。
「えっ……平日の夜に夜景?」
「やっぱなし、うそ」
「いやいやいやいや、ロマンチックすぎ! え、しかも旦那さん普通に今日仕事?」
「……そう、ですが」
ひゅう、と口笛を吹かれて、咎めるようにじろりと睨みつけた。しかしガールズトークに胸を躍らせる彼女に対し、効果は全く感じられない。
「ええー? イケメン。ひかりさんめっちゃ愛されてる」
「そういうのじゃないってば。高速に乗っていけるとこ、海見ようって言って連れて行ってくれただけで」
「ああ、夜景綺麗なとこだ。そういうのじゃないってなに? 普通にカッコ良すぎてウケる」
「ウケ……?」
「それで海見ながらいちゃついてきたんだ。私の下賎な妄想よりずっと素敵じゃん」
こんな話をするつもりはなかった。結婚してから、大和との日常を人に話す機会は一度もなかったから、どんな顔で話せばいいのかも分からない。
少し前まで自身に起こっていた出来事を振り返り、すぐにかき消した。
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