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「いちゃ……ついてはない」 「イチャイチャしてきたんじゃないの? 手繋いだりベタベタしたりチューしたりすんでしょ?」 「……してない」 「間があった」 「ノーコメント」 「こんな可愛くて優しいひかりさんが相手だもんね。そりゃ結婚してからも海連れてくわ。いいなあ」  万が一にもこれをした人が星大和だと気づかれると、あまりよくない。今後水野愛子の仕事で彼とバッティングしそうなタイミングがないか、思考を巡らせつつ、甘いため息をつく彼女に向かって口を開いた。 「愛子ちゃんにも、いるんでしょ」  問いかけると、彼女は何も言わずに目を伏せた。桃色のネイルが施された爪先をなぞって、言葉を選んでいる。  あのとき、あの場所ですぐに私が答えられなかったから、彼女は胸の内を隠して先へ進もうとしている。 「……会ってきたよ。やっぱ無理だって、ちゃんと断った」  少し前までの明るさは鳴りを潜め、水を打ったような静けさに包まれた。  水野愛子は食べることが好きなのに、ストイックな減量を続けて、お菓子の類はもう何年も口にしていない。どれだけ好きなものが目の前にぶら下げられても、決して手を伸ばそうとはしない。  真面目で我慢強く、そしてなによりも自分を律することのできる強い人だ。そういうところを心底信頼し、尊敬して、応援している。  けれど、決して寂しい思いをして欲しいわけではない。
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