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「愛子ちゃん」
「うん?」
呼びかけたら、水野愛子は美しい笑みを作って私に視線を向けてくれる。
それは完璧に整えられた、見るものすべてを魅了する素敵な笑顔だ。
でも、つらいときくらい、泣いたり怒ったり、困った顔をしたりしていい。私はいつもそう思っている。
「私ね、この間浅野監督から、愛子ちゃんの演技に痺れたって、どんどんうまくなってて怖いくらいだって、声をかけていただいたんだよ」
「あはは、本当?」
「うん。嘘つかないよ。ずっと頑張ってたもんね。認めてくれてうれしい」
顔の見えない誰かの誹謗中傷で、人はいとも簡単に傷つく。
――けれど、大切なことは、常に目の前の大切な人たちが教えてくれる。
爪先をなぞる彼女の手に自分の手を伸ばして、包むように上から握った。
辛いとき、苦しいとき、いつも抱きしめてくれる人がいた。その優しさを、私も大切な人に分け与えられる人間でありたい。
唇を噛んで私の言葉に耳を傾ける彼女が、どうしようもなく泣き出してしまいそうに見える。
「ファンレターも読んでるでしょ? 演技が上手だって、感動したって、たくさんの人が言ってくれてるでしょ」
「う、ん」
あなたはすごい人だ。他の誰がなんと言おうと、この世に生まれた奇跡で、いつもどんなときにも輝かしい。
ただそれを伝えたくて手を握り直したら、彼女の大きな瞳が震えた。
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