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雨は降っていなかった。
いっそ落ちてきてくれていればよかったものの、そうはならなかった。
そのはずが、俯いた視線の先にあるアスファルトにはまだら模様が浮かんでおり、数秒経ってからそれが自分の涙であることに気付いた。
現実に疲れきっていた。
何もかもが終わった後で、目的や目標や、生きがいを失くした人間は、いったいどうなってしまうのだろうか、とぽつりと考えていた。
空を見上げると、珍しくもないグレーの雲だけが存在している。
この星は美しくなくて、――いや、美しいものを失くしてしまって、抜け殻のようだ。
ふらふらとコンビニに入って、一万円札と引き換えに度数の高いアルコール飲料を二つ購入する。紙幣を含む釣銭はすべて募金箱に投げ入れて、目を丸くする若い店員に目をくれることもなく、店を後にした。
「あ、れ……?」
ふと気が付いたら私は献花台の前に立ち尽くしていて、両手にはアルコール飲料を握りしめていた。
色とりどりの花が所狭しと並べられている。
彼が好きだと言った花がたくさん並んでいた。
お菓子も、プレゼントも、何もかも、この場所には収まらないほど溢れかえっていて、ぼんやりとした意識の中で、そういえば花を忘れてしまったと思ったのはほんの一瞬だけだった。
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