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結婚から二年目の冬のことだ。
見ず知らずの男性が部屋のインターフォンを押した。その時私は前日の夜、大和にリクエストされたコロッケを揚げているところだったことを覚えている。
このときすでに、私と生活を共にしてくれている男性が私の知る星くんではないことを知ってから約半年が経過していた。
ガスコンロの火を止めてからモニターの前へと近づき、真面目そうな男性が映っていることに気づく。
黒髪に銀縁の眼鏡の男性だ。細身で背が高く、しっかりとスーツを着こなしている。
それまでこの部屋を訪れる人は一人もおらず、この時の私はインターフォンの使い方にもあくせくしていた。
「……だれだろう?」
見るからに生真面目そうな男性だ。私が応答に手間取っているうちにもう一度ベルが鳴ってしまう。
「はい!」
慌てて音声を繋げると、その人はカメラの方をまじまじと見つめ、綺麗に頭を下げた。
「星さんのお宅でお間違いないでしょうか」
「え? はい。そうですが……」
「では、星晶さんでいらっしゃいますか」
「そう、です、けど」
淡々と確認を取ろうとする相手に思わず首を傾げてしまう。しかしカメラの前に立つその人は、私の不安など置き去りにして事実を語り始めた。
「私、星大和さんのマネジメントを務めております。KRプロダクションの溝口と申します。先ほど星さんが緊急搬送され――」
「……え?」
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