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 口の中でぽつりとつぶやいても、誰も返事なんてしてくれない。愚かしい自分を嘲って、瞼を閉じた。  大和は彼が星悠翔とは別人であることを私に知られてから、特に私に触れるようになった。  それはたとえば頭を撫でたり、抱きしめたり。それ以上のことも当然のようにする。そしてそれはいつも私が取り乱す時に行われた。  大和が私に初めてキスをしたのも、私がひどく取り乱した時だった。 『ひかり』  星くんのお墓参りの帰り道、泣きすぎて息ができなくなりかけた時に突然顔を寄せられて唇に熱が触れた。 『なんで、き、す』 『すげーしたくなったから?』 『なん、で』 『なんでだろうな。でもさ、涙引っ込んだじゃん』  彼が私に触れる理由はいつも慰めで、それを好意と認識するのはあさましい。  彼は特に私に触れる時、星悠翔に似た雰囲気で笑っていた。  彼は私が星悠翔を必要としているから、星悠翔のように振る舞って、私を生かそうとしているだけだ。  じゃあ、私が星悠翔の喪失を受け入れることができてしまったら――? 「星さん、着きましたよ」 「あ……はい」  頭の中を蠢いていた思考が途切れ、促される通りに車を出た。夜の病院は物悲しくて苦手だ。この清潔な香りにもあまりいい思い出がない。
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