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 どうしようもなく心配して、今にもこの部屋に帰ってこようとしていそうだ。その姿を想像するだけで笑えて、笑った拍子に結局涙が落ちる。不明瞭な視界が開けて、次に送られたメッセージが網膜に映った瞬間、到底立っていられなくてその場に座り込んだ。 『今から帰る』 「ふ、は、予想通り、すぎだよ」  大和は溝口から、三日間安静にするために、自宅には帰らず病院で休んでほしいと言われていたはずだ。  彼はそれを破ってでも、私を優先しようとしている。  優しくて、優しすぎて、心臓が潰れてしまいそうだ。  泣きながら、どうにか指先で言葉を紡ぐ。 『ごめん、ねぼけてた』 『眠剤、ねむくて』  一ヶ月前の診察で医師からは、ほとんど薬は必要がない段階まできていると説明されたことを大和には何も伝えていなかった。  伝えてしまったら、この関係が終わってしまいそうで、大和が離れていってしまいそうで、怖かったからだ。 『びびった。悪い、起こしたな』  少し間をおいて、優しい言葉が返ってくる。涙がぽろぽろとこぼれ落ちて、ディスプレイが滲んだ。  文字を入力しづらい画面に触れて、言葉を選ぶ。彼の嘘に騙されたふりをして、丁寧に言葉を紡いだ。 『出張、むりしないでね』  ――私は星悠翔ではなく、星大和という人に恋を覚えた。
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