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 口数が多い方ではないのに瞳が雄弁で、よく人の気持ちを考えている優しい人だ。  自分を犠牲にするところが玉に瑕だけれど、何事にも努力できて、腐ったりしない、輝かしい人だ。  どうしてか奇跡が起きて、私の隣に現れてくれた。ずるい私は、このまま大和が私の隣にいつづけてくれる未来を夢見て、心が治っていることを隠していた。 「私といる方が、ストレス、かかるよね」  星悠翔のように振る舞ったり、私が不調を訴えるたびに立ち止まったり、生活のリズムが乱れっぱなしになっていたはずだ。  けれど彼は一度も私にはそれを見せようとしなかった。   『早く帰りてえわ』  涙で歪んだディスプレイに大和の指先に紡がれた文字が映る。何度もその文字をなぞって、ついに嗚咽がこぼれ出た。 「っ、……ぅ、……うう、」  大和は嘘吐きで、大嘘吐きで、隠し事ばかりしている。それなのに、どうしてその言葉が彼の本心だと、私は思い込んでいるのか。  固く閉じた瞼の裏で、大和が笑っている。いつも全力で抱きしめてくれていた。それさえも嘘だなんて、どうしても思えなくて――思いたくなくて、小さな機械を強く握りしめた。 『おやすみ、ひかり』 「どうしてそんなに、優しい、の」  どうして私はこんなに優しい人を、苦しめているのだろうか。
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